石油地政学史⑨ NWO新世界秩序宣言 - 1989東西冷戦崩壊 / 1990年湾岸戦争
更新日:石油を支配すれば、諸国を支配できる。ヘンリー・キッシンジャー
前回 石油地政学史⑧では、英米がIMFという国際機関を通じて各国に干渉し、国家主権を剥奪する手口を確立した。新型帝国主義の植民地獲得システムとも言える。
第9回目となる本稿のテーマは、「東西冷戦の崩壊」とブッシュ米大統領による「Ner World Order(新世界秩序)」宣言。
悪の帝国を演じさせていたソビエト連邦が崩壊し、次の悪役が必要になった英米は「悪の枢軸」を必要とし、イラクは湾岸戦争でその生贄となった。
一方、共産主義がイデオロギー闘争に負けたことで、「グローバリズム」と名前をリニューアルし 西側へ浸透させ始めていた。
- 本稿の前提となる地政学「ハートランド」については別項をご覧頂きたい。
- 本シリーズでは、ハートランドを巡る近現代史をウィリアム・イングドール氏著書*の助けを借りて早足で振り返ってみた。
- 本シリーズの一貫したキーワードは「石油」「金融」「ハートランド」
*ウィリアム・イングドール氏の著書 - 「ロックフェラーの完全支配 石油・戦争編」。中国で大学の教科書に採用。
冷戦崩壊 - 警戒されたソ連・ドイツの接近
東西ドイツ統一の象徴ブランデンブルク門
1989年11月、ベルリンの壁が崩壊。
ソ連が期待したのは、西ドイツの強い牽引力で経済発展した統一ドイツが、ソ連再建の良きパートナーとなること。
コール独首相は「パリ ~ ベルリン ~ ワルシャワ ~ モスクワ」を近代的な鉄道で連結し、新生ヨーロッパの社会基盤にしたいと夢を語った。
ド・ゴールの夢
かつて仏大統領ド・ゴールが描いた夢「大西洋からウラル山脈まで 経済協力しあうヨーロッパ」の理想が復活しつつあった。
ドイツ銀行頭取ヘルハウゼンの夢
ベルリンの壁が崩壊した同月、ドイツ銀行頭取アルフレード・ヘルハウゼンは、ウォール・ストリート・ジャーナルの取材に答えた。
10年以内に東ドイツを欧州で最も近代的な経済地域に再建する。ヘルハウゼン
ヘルハウゼンの暗殺
※ 画像はイメージ
その数日後、ヘルハウゼンの防護車両がプロの手口で爆破。
教養ある層のドイツ人たちは、1960年 ラパッロ計画で暗殺された愛国者ラーテナウ外相をすぐに思い出したことだろう。
統一ドイツを警戒した英国
共産主義の崩壊は喜ばしいはずが、英国政界は奇妙なことに ドイツ第4帝国の出現を警戒。
統一ドイツがロシアも「良い」巨人になるよう指導したとしよう。
(中略)
現実にはその方が脅威だし、危険だ。ルールを守って勝つつもりの統一ドイツに対して、有効な防衛策はないからだ。
(中略)
とうとうドイツは、スラブ民族を国際社会に連れ戻す 第一人者という素晴らしい地位を得てしまった。
ドイツが良いことをしていけば、かつて悪いことをした時と同じくらい 敵を抱えることになり、その敵の一つは間違いなくアメリカになるだろう。
ペレグリン・ワーストホーン*
* サンデーテレグラフ誌編集者。イングランド銀行総裁は義理の父。上記は「良いドイツは問題」より。
統一ドイツ・東欧・ソ連の連携と発展
眠っていた東欧・ソ連というブルーオーシャンが、統一ドイツの牽引で発展する。これは、ハートランドが目覚めることを意味した。
相変わらず英米にとって、「ハートランドの覚醒」は絶対に阻止しなければならない命題であり続けていたのだ。
冷戦崩壊 - 米国の仮想敵国 = 同盟国 日本とドイツ?
やがてソビエト連邦の崩壊が近づくと、NYウォール街は「米国の潜在的な仮想敵国とは、同盟国であるはずの日本や、ドイツを中心とした欧州大陸」であると認識。
日本が旧共産圏の復興を手助けし、イニシアチブを取ることなどあってはいけないし、ドイツ・東欧・CIS(旧ソ連)が助け合って平和に復興することは 断固阻止せねばならない。
次の悪役が必要
「悪の帝国」ソ連がいなければ、世界の警察は居場所を失う。アメリカなしで幸せにやっていける日本や欧州を、アメリカは許さない。
1991年、湾岸戦争が開始。ウォール街はブッシュ政権の目を、日本やドイツが依存する中東の油田に向かわせたのだ。
これは「東西冷戦体制に代わる次の世界秩序」の趨勢を決める重大な出来事であった。
1991年 湾岸戦争 - 日本とドイツの封印
イラク大統領サダム・フセインは「石油資源の豊富なアラブ諸国が結集し、欧州・日本・ソ連との関係を築くべき」だと主張。
これが英米金融支配層を怒らせた。世界島が石油を抱えて団結することを、英米は絶対に認めない。
湾岸戦争の目的 - 日本・ドイツの資源封鎖
1991年1月、米国は多国籍軍を率いてイラクへの空爆を開始。
「砂漠の嵐作戦」の本丸は中東和平でも、石油利権そのものですらなく、日本とドイツのコントロール。
日本とドイツが依存するアラブの石油資源を、アメリカが支配することを狙ったのだ。
多国籍軍の費用捻出
そうとも知らず、我が国もドイツも巨額の血税を多国籍軍の下に差し出した。
全体合計 | 611億ドル |
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日本 | 130億ドル |
ドイツ | 70億ドル |
アメリカ一極支配を支える日本・ドイツ・アラブ諸国
ソ連崩壊が目前に迫り、超大国はアメリカ一国に。唯一の超大国アメリカが圧倒的な軍事力を保持することで、世界の平和が保たれるというのが、ネオコンの説明。
そのアメリカ軍の膨大な費用を、「日本・ドイツ・アラブ産油諸国が金銭的に支えるシステム」をブッシュ政権は強化したのだ。
戦争で大儲けするネオコン
ネオコン背後の軍事産業、石油業界、国際銀行家たちは、世界最強のアメリカ軍に戦争をさせ続けた。湾岸戦争以降も 大儲けを繰り返した軍産複合体。
これがこの数十年間、アメリカ政府(ネオコン)が新しい戦争を開始し続ける謎の正体だ。
1991年 湾岸戦争 - 偽旗作戦
1964年 トンキン湾事件もそうだが、米国の支配層は戦争を始めるためなら 嘘で国民と世界を欺いてもへっちゃらだ。
戦争開始前後は、情報の洪水が一方通行。多くの賢明かつ良心的な人々でも騙されてしまう。
愛国心・正義感が煽られると、国民は開戦を熱狂的に支持するという大衆心理。これを実にうまく利用しているのが英米に潜む国際金融資本。
メディアは株主、広告主として支配
国際銀行家たちにとって、プロパガンダはお家芸。
新聞・TVへのマネー介入はいくらでも方法がある。比較的クリーンな手口だけでも、株主として、取引銀行として、スポンサーとしてなど豊富。
そもそも国際通信社を創業しているのは、彼ら国際金融資本なのだ。
1991年も「ナイラ証言」「油田爆破」で世界と米国民を騙した。戦後に真実が知られても遅い。空爆された無辜のイラク国民は 二度と帰って来ない。
1991年 湾岸戦争 - ベルリン~バグダード鉄道の空爆
同年2月、多国籍軍が ベルリン - バグダード鉄道をしれっと空爆。
ロンドンのタイムズ誌は「ベルリン - バグダード鉄道は、英独の戦略的駆け引きの焦点だった」と報道。
石油地政学史①で取り扱った内容が、そのまま繰り返されている。第一次世界大戦も「ドイツと中東間の資源協力」を恐れたからだった。
混乱するイラクと東欧・ロシア
解放されたはずの東欧諸国の経済は、困難な立ち上がりを余儀なくされた。
東欧諸国がソ連の石油を輸入するにあたり、農産物などで物物交換をしてきたことも大きい。
1991年1月からの東欧諸国は、ドル支配システムに組み込まれていた。つまり、ロシアの石油を買うために米ドル決済をする必要に迫られたのだ。
イラクは東欧諸国と石油の売買契約をしていたが、湾岸戦争により石油価格が急騰したし、そもそも供給自体がストップしてしまった。
新世界秩序 - ブッシュ大統領による宣言
勝利したブッシュ米大統領は「新世界秩序」を宣言。ただし、その表現が注目されすぎた上、批判や憶測を呼んだため、やがてブッシュ自身が使わなくなった。
ネオコンの天下
冷戦が終了しても、元共産主義者(トロツキスト)たちは「右側へ転向した」ことで、勢力を維持できた。
根本的には共産主義思想(唯物思想)のまま、看板だけ「新保守主義(ネオコン)」を掲げたのだ。
そのネオコンが、ディック・チェイニー国防長官を筆頭に、パパ・ブッシュ政権の閣僚ポストを占めることに成功。
米軍・石油会社・シンクタンクといった軍産複合体と一体であるネオコンは、タカ派と呼ばれる英米支配層の武闘派グループだ。もちろん、戦争で儲かる戦争利権グループのことである。
悪の枢軸 - 新世界秩序の悪役
息子ブッシュの時代には、新世界秩序のターゲットが かつての「悪の帝国(ソ連)」から「悪の枢軸(イラン・イラク・北朝鮮)」へとシフト。
いずれも悪役と説明しやすかった。つまり、「悪の枢軸なら爆撃されても仕方ない」と、世間が暴力を認定する世論を作りやすかったのだ。
新世界秩序 -「共産主義」→「グローバリズム」
国際金融資本もこの頃には「共産主義」という看板の歴史的役割を終了。次の看板として「グローバリズム」という正義の妖怪が前面に登場した。
神を信じない共産主義という悪役が消え、国際金融資本は自身を正当化する新たな理由を必要としていたのだ。
世界中のマスコミ・教育機関が「グローバル化」を布教したことで、グローバル化に反するものは 次々と異端視される世界が始まった。
伝統やナショナリズムが、危険思想とみなされる時代の到来だ。
東欧の民主化・グローバル化
共産主義というイデオロギーと秩序を喪失した東欧・ロシア。
米国ネオコンがNATO軍を引き連れて空爆しようとも、「民主化・人権・グローバル化という建前があれば正義」とマスコミは宣伝した。
英米の支配層は、たしかに新しい秩序を築こうとしていたのだろう。軍事力を用いても。
そしてその秩序とは、国際金融資本にとって都合の良い秩序であり、諸国民が調和して幸福な世界を築くことを意味しなかった。
次回、石油地政学史10 のテーマは 「1999年 ユーゴ空爆 - NATO・IMFの敵は軍事制圧」 。
■ 石油地政学史 バックナンバー一覧
この記事のまとめ
石油地政学史⑨ NWO新世界秩序宣言 - 1989東西冷戦崩壊 / 1990年湾岸戦争- 冷戦崩壊後、東欧・旧ソ連諸国と日本・ドイツの協力関係構築を英米支配層は恐れた。
- 冷戦崩壊で、英米の潜在的仮想敵国は日本・ドイツとみなされるようになった。
- 東西冷戦崩壊後の1991年湾岸戦争で、米国ブッシュ大統領は「新世界秩序」を宣言し、目指した。
- 共産主義が敗北したように見せかけて、「グローバリズム」という新しい看板で西側にも浸透を開始した。