モンサント種子支配『GMO(遺伝子組換え種子)+ ラウンドアップ(グリホサート)』 - アルゼンチンの事例
更新日:石油を支配すれば、諸国を支配できる。 食糧を支配すれば、人類を支配できる。ヘンリー・キッシンジャー
ベトナム戦争の悲劇、枯葉剤を製造していた「化学会社 モンサント」。
今や世界のGMO種子90%を支配する「種子メジャー」として君臨している。
人類の主食は穀物。
食糧「種子」の遺伝子を著作権レベルで独占。キッシンジャーの考えに従えば、これは人類支配を意味する。
モンサント社によるGMO種子と農薬ラウンドアップ(グリホサート)を利用したモノポリーゲーム。
「アルゼンチンの事例」をもとに考えてみたい。
モンサント社とは - 死の商人という暗黒史
創業年 | 1901年 |
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創業地 | 米ミズーリ州セントルイス |
モンサント社史
1961年 | ベトナム戦争で使用する枯葉剤を製造 |
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1970年 | 除草剤グリホサート(商品名ラウンドアップ)を開発 |
1994年 | 組換えDNA牛成長ホルモンを開発 |
1995年 | ラウンドアップレディ大豆を発表 |
1998年 | 穀物メジャーカーギル社の種子部門買収 |
2018年 | 製薬メジャーバイエル社によって買収 |
モンサント社の歴史には、戦争兵器、不法投棄、健康被害、隠蔽、訴訟など 物騒な件がずらり。
とても褒められた企業文化とは言えず、無条件に信頼することは難しい企業だ。
- 1937年時点で自社製品PCBの有毒性を認識していたが、各国政府が使用禁止にするまでの40年間 事実を隠蔽し、販売を続けた。
- ベトナム戦争というマーケットの喪失を恐れ、枯葉剤の毒性を米軍にすら隠蔽。わずか80gで800万の住民が全滅するダイオキシンを、400kgもベトナム上空から散布。米軍兵士にも多大な犠牲が発生。
左右を超えて非難
モンサント社については、左右を越えて、大変な非難の声が上がっていることに注目したい。
本稿では深く言及しないが、この対立軸は左右でなく、「グローバリズム vs 反グローバリズム」であることがよくわかる。
左右を超えた反グローバリズム結集のヒントがありそうだ。
映画「モンサントの不自然な食べもの」
モンサントの出自
創業者ジョン・フランシス・クィーニーは、セファルディム系ユダヤ人モンサント家出身*である妻オルガ・モンサントの旧姓を 社名に取り入れた。
製薬会社バイエルに買収されたことにより、現在社名そのものは存在しない。
オルガの父は砂糖投資家であった。
モンサント社は当初、人工甘味料サッカリン**を販売する事業からスタートし、コカコーラ社へも販売している。
*モンサント家 - 祖先はイベリア半島のマラノ(カトリック教会に改宗したことになっているユダヤ教徒)。アムステルダムを経由し、1760年代に現在の米国ルイジアナ州に移民。奴隷貿易で財産を築いた一族。
**サッカリン - 発癌性の疑いがある人工甘味料。現在でも砂糖不使用の甘口食品や飲料水、歯磨き粉などに多く使用されている。
モンサント社の主力商品 - 農薬とGMO種子
モンサント社の主力製品は農薬と遺伝子組換え種子(以下 GMO:Genetically Modified Organism)のセット。
- ラウンドアップ
- 農薬。主な成分はグリホサート。 - ラウンドアップレディ
- 遺伝子組換え大豆の種子。同社農薬ラウンドアップをかけても枯れない。一度しか発芽しない(F1種子)。
農薬で枯れない種子の開発
日本でもホームセンターで買える大ヒット除草剤「ラウンドアップ」。撒くと、あらゆる雑草が枯れ果てる。
しかしモンサント社が遺伝子を組み換えたGMO大豆種子である「ラウンドアップレディ」だけは、枯れない。
- 除草剤に耐性のあるバクテリアの遺伝子を組み込むことに成功。
- 収穫量は多い。
- 土を耕す必要がない。
小規模な農村ではなんともありがたい商品だ。
アグリビジネス企業による「緑の革命」的な大規模農業にもぴったり。
モンサントの画期的な発明 - 「農薬と種子」セット販売
この画期的な発明は、モンサント社に膨大な利益をもたらした。
- ラウンドアップレディ種子は、ラウンドアップ以外の農薬を使うと枯れてしまう。
- ラウンドアップレディ種子は、一度しか発芽しない F1種子*
そのため、一度この種子を使った農家は、次年度もこの種子と農薬をモンサント社から買わざるを得ない。
いや、ラウンドアップレディ以外の農作物はもう育たない汚染土壌となるため、毎年買い続けるしかなくなる。
*F1種子 - 遺伝子学上、一代限りの種子。色、形が均一に育つ傾向。必ずしも遺伝子組換えばかりではない。
スーパー雑草
ただし、最初はラウンドアップの効果が見えても、害虫や雑草には すぐに耐性ができてしまう。
いわゆる「スーパー雑草」の誕生で、農家の手間はかえって増加。「手間なし」という宣伝文句だったのではないのか。
ラウンドアップの使用量は増加せざるを得ない。すると さらに雑草たちの耐性が強化。
この悪循環で土壌は汚染され、ラウンドアップレディ大豆以外の作物が全く育たなくなる。
しかも収穫量は むしろ徐々に減少するという。
モンサントの政治力
それに気づいた農家が声をあげたところで もう遅い。
訴える先のFDA(米食品医薬品局)には、モンサント社をはじめとするアグリビジネス企業の仲間が多く潜伏していた。
米政権閣僚、司法にまでその力は及んでいる。いわゆる回転ドア人事だ。
農家はモンサント社を規制するどころか泣き寝入りし、その契約に隷従するしかなかった。
モンサントとの契約 - 遺伝子警察
- 自家採取の禁止
- 種子・農薬を毎年モンサント社から購入し、ライセンス料を支払う
- 守秘義務
- 「遺伝子警察」の立入許可
21世紀のはずだが、これでは農奴と呼ばざるを得ない。
「隣の畑から風で運ばれたGMO種子の花粉・種子が自分の畑に飛来した」という事例では、モンサント社から訴訟を起こされている。
GMO種子遺伝子の特許・著作権を主張しているのだ。
当該農家がモンサント社と契約を交わしていなくとも、裁判所では農家の「技術的責任」を問う。
拡がるGMO汚染
全世界が全力でマスク、ワクチンを強制しても、風邪一つ止められないことを 私たちは知っている。
ウイルスもそうだが、種子の拡散を人為的に止めるなど事実上不可能。
- カナダの在来種アブラナ
- 大部分がGMOに汚染されていることが判明。 - メキシコの在来種トウモロコシ
- GMOに汚染されていることがわかり、多様性が喪失。
遺伝子組換えに汚染されると、生物としての多様性が喪失される。つまり、品種改良が事実上困難になるという意味だ。
これは遺伝子クライシスを迎えた時に、人類の存亡だけでなく、地球の生命体がまるごと消滅しかねないリスク。
アルゼンチンの事例① 債務危機
1970年代までのアルゼンチン農業は優等生であった。
多様な作物を育て、世界最高級品質の牛肉を生産していた 元気で小さな家族農家たち。
石油危機で経済危機に
ところが、1970年代の石油危機に始まる債務危機で状況が一変。
当初、チェイス・マンハッタン銀行などウォール街の国際銀行は、なぜか魅力的な条件でアルゼンチンに融資。
アルゼンチンが石油の輸入代金を賄うための借金だ。
債務の罠 - 外資規制が緩和へ
1979年10月に米国が突然金利を4倍に上げた時、アルゼンチンは債務の罠にハマっていた。
クーデター、軍事政権、IMF、米国の干渉。
その後のアルゼンチン経済は「外資が自由に参入できる構造」に改革されてしまった。
1996年、モンサント社は ワシントンの友人であるメネム大統領から、アルゼンチンでのGMO大豆種子独占販売ライセンスを獲得。
アルゼンチンの大地が買われた
それに平行し、通貨安を利用した外資がアルゼンチンの大地を次々と買収。
穀物メジャー カーギル社や、ジョージ・ソロスの投資会社 クォンタムファンド*だ。
*クォンタム・ファンド - 1969年天才投資家ジム・ロジャースと設立した伝説のヘッジファンド。10年間でリターン4200%を記録。
家族農家は経済危機で土地を手放した
IMFによる自由市場改革で、アルゼンチンには大量の激安輸入食品が蔓延。農家の貧困化が加速。
小規模農家は土地を手放すか、立ち退きを拒否したくとも、警察から強制退去を迫られる。
武装テロ集団が牛を盗んだり、作物を焼いたり、暴力で脅すことも。
アルゼンチン国民を不幸に
この結果、大都市に元農家たちが流入。スラム街が過密化し、病気が蔓延。犯罪・自殺も増加。
先住民たちの住む森は切り開かれ、ブルドーザーで開拓。先住民たちに様々な疾患が出たが、彼らに高い治療費を払えるはずもなかった。
貧困ラインの変遷
1970年代のラテンアメリカで、最も豊かさを謳歌したアルゼンチン。
2002年には国民の過半数が貧困ラインを下回り、栄養失調の子供たちが増加。
1970年 | 5% |
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1998年 | 30% |
2002年 | 51% |
アルゼンチンが債務不履行に
GMOアグリビジネス企業たちが準備万端となった2001年には、アルゼンチン経済が債務不履行(デフォルト)を発生。
親米かつ新自由主義者であるメネム大統領の主張は、「この債務危機を乗り越えるには、GMO大豆を大量生産・輸出して 外貨を稼げるよう農業改革をするしかない」というもの。
なんだか日本の小泉改革やショックドクトリンとそっくりに見える。
アルゼンチンの事例② GMO拡散開始
いよいよアルゼンチンで 壮大なGMO実験が開始。
悲惨な経済状態のアルゼンチン農家には「寛大な」ローンが差し伸べられ、ラウンドアップとGMO大豆種子を買わせた。
モンサントがこの時 GMOとラウンドアップを販売した価格は、通常の1/3。
GMO大豆種子については、技術ライセンス料を免除してまで配布に努めることもあった。
しかも支払いは収穫後で構わないという。
しかし、驚くには及ばない。
サタンも光の天使に擬装するのだから。聖書:コリント第二11章14節
「国家の大豆化」パンパが大豆畑に
この結果、関東平野の60倍という世界最大の牧草地帯の一つパンパは、大豆畑に変わった。
その拡大速度は尋常ではない。
1970年 | 1万ha |
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2000年 | 1000万ha |
2007年 | 1600万ha |
伝統的にパンパで放牧されていた牛の群れは GMO大豆に大草原を譲り、米国式の狭いファクトリーファームに押し込められるようになった。
その方が儲かったのだ。
食品の多様性喪失
レンズ豆、エンドウ豆、サヤ豆など多様であったアルゼンチンの農地は、大豆一色のモノカルチャー化。
アルゼンチンではこの現象を「国家の大豆化」と評した。
実際、ラウンドアップの空中散布により、GMO大豆畑周辺の野菜は枯れ果てた。
家畜や子供達にまで健康被害が及んだことは、ベトナム戦争でモンサント製の枯葉剤が招いた悪夢を思い出させる。
作物の多様性を失った結果、次の経済危機では飢餓が発生。
アルゼンチン国民が従事させられたのは、国民の食生活を守る国民農業ではなく、ただただビジネスだけが目的の商業農業であった。
アルゼンチンの食生活チェンジ
それはともかく、寛大なモンサントやカーギルは、飢えたアルゼンチン国民に 元々は家畜の餌であった大豆を無償で配布することに協力。
この時、アルゼンチン国民の健康な食生活に新たな提案がなされた。大豆プロテインを摂取することで、栄養価を高めようとの国家キャンペーンだ。
パニックに乗じて「新たな生活様式」の提案。
ん? 2020年に聞いたような?
「大豆食品 = すべて健康」とは限らない
東洋における味噌や納豆など、「大豆を発酵させた食品」はたしかに健康的かもしれない。
しかし「発酵させていない大豆食品」には いくつもの論争がある。
- アレルギーや癌を誘発するとの統計結果
- トリプシン阻害物質 - 成長が阻害
- イソフラボン - 女性ホルモンと似た働き → 男性の身体が女性化し、精子数が減少
世界の食糧メジャーは、彼らの主力製品である大豆が健康だと片面の宣伝しかしないが、議論があることだけは認識しておきたい。
アルゼンチン → 南米大陸の大豆化へ
パンパはアルゼンチンのみならず、隣国と地続きの大草原。
したがってGMO種子は、風に乗って、あるいは「密輸」でブラジル、パラグライ、ボリビア、ウルグアイへと拡散。
アルゼンチンからブラジルへ密輸されたGMO種子。
残念ながらコカイン中毒でも名を馳せたアルゼンチン伝説のサッカーにちなみ、「マラドーナ種子」と呼ばれた。
ただし違法行為による拡散に気付こうが、モンサント社はまたしても「寛大」に見守った。
ブラジルも攻略
2005年、ブラジルのルラ政権はGMO大豆種子の植え付け合法化を承認。
もはや手をつけられないほど、ブラジル全土にGMOが拡散してしまっていたのだ。
広大なブラジルでGMO大豆をばら撒いておけば、あとは毎年ブラジル全土の顧客が押し寄せる。
モンサント社はブラジルで 大量のラウンドアップを販売することに成功。今や世界一の大豆生産国は、アメリカをも抜き去ったブラジル。
大豆生産市場の寡占化
2006年には 米国、アルゼンチン、ブラジルの三カ国で、世界の大豆生産の81%に到達。
上記3カ国で生産している大豆は、ほとんどがGMO。
つまり、大豆カスを飼料としている世界中の家畜は、ほぼすべてがGMO大豆を摂取していることになる。
大豆自給率6% - 日本人の身体=外国産?
日本は大豆、トウモロコシのほとんどを米国から輸入。我が国の大豆自給率は6%。つまり私たちが食す94%の大豆タンパク質は外国産。
食品成分表に記載されていない場合は、ほぼ間違いなくGMOの大豆だろう。
日本の伝統的な基礎食品である味噌、醤油、豆腐、納豆が外国産のGMOだらけ。この現実は見なかったことにしないと、今夜の夕飯をじっくり味わえなくなりそうだ。
トウモロコシは100%輸入依存
トウモロコシに至っては自給率0%。すなわち100%外国産。トウモロコシ輸入量世界一はなんと我が日本国。
年間輸入量は1,600万t。日本国産の米が1,000万tであることと比較すると、どれだけ危険な状態かわかるだろうか。
日本国産の牛肉といっても、飼料が外国産GMOトウモロコシであれば、もはやそれは本当に日本国産と言えるのだろうか。
日本人の身体 = 外国産?
米国産のGMOが我々の血肉となっていることを考えると、私たち日本人の身体はすでに国産とは言えないのかもしれない。
いや、そもそもオーガニックとすら言えないのかもしれない。GMO食品で構成された身体なのだ。
民間会社が世界の種子を支配
以上がアルゼンチンの事例を通じて、最大手のモンサント社を始めとするGMOアグリビジネス大企業がシェアを拡大させた顛末と結果。
世界中で基礎的な食品である大豆、トウモロコシ、ジャガイモ、なたね。
人類共通の相続財産である穀物種子を、国家ですらない、一介のグローバル民間企業がいつの間にか握っている。
食糧を支配すれば、人類を支配できる。ヘンリー・キッシンジャー
アグリスーティカル
モンサントを始めとするアグリビジネス企業は、一体どこへ向かっているのか?
次の段階でモンサントの経営責任者ロバート・シャピロ氏が仄かした戦略は「現在のところ、それぞれ別の産業として動いている世界の三大産業、つまり農業・医療・食品を融合すること」であった。
この記事のまとめ
モンサント種子支配『GMO(遺伝子組換え種子)+ ラウンドアップ(グリホサート)』 - アルゼンチンの事例- GMO種子 世界シェア90%のモンサント社は、ベトナム戦争で枯葉剤を供給するなど、本来は化学会社。
- 農薬ラウンドアップと、それに耐性ある唯一のGMO大豆種子 ラウンドアップレディのセット販売は、画期的な発明であり、大ヒット。
- 債務危機に陥れられたアルゼンチンは、多様性のあった国民農業を棄て、GMO大豆によるアグリビジネスに舵を切り、アルゼンチンの食生活も大豆利用が促進。
- 密輸などもあり、アルゼンチンのパンパだけでなく、南米全土の耕作地がGMO大豆に汚染された。
- 世界中の家畜飼料にGMO大豆が利用。
- 日本の大豆自給率は6%。