石油地政学史⑩ 1990年代 ユーゴ空爆 - NATO・IMFの敵は軍事制圧
更新日:石油地政学史⑨では、「東西冷戦の崩壊」とブッシュ米大統領による「Ner World Order(新世界秩序)」宣言について取り扱った。
第10回目となる本稿のテーマは、「1990年代 ユーゴ空爆 - NATO・IMFの敵は軍事制圧」
英米支配層は、ハートランド(ロシア)を「無害化」するための足がかりをバルカン半島で築こうとしていた。
英米金融支配層はグローバリズムを推進する上で、IMFによる経済圧殺どころか、NATO軍による大規模空爆も実施。戦闘員ではない、多くの一般国民を大量虐殺。
ユーゴスラビアには、冷戦崩壊で訪れるはずの平和などなかった。
- 本稿の前提となる地政学「ハートランド」については別項をご覧頂きたい。
- 本シリーズでは、ハートランドを巡る近現代史をウィリアム・イングドール氏著書*の助けを借りて早足で振り返ってみた。
- 本シリーズの一貫したキーワードは「石油」「金融」「ハートランド」
*ウィリアム・イングドール氏の著書 - 「ロックフェラーの完全支配 石油・戦争編」。中国で大学の教科書に採用。
ユーゴスラビア内戦とは?
石油地政学史を学んでみると、ユーゴ空爆と2022ウクライナ危機の繋がりが ぼんやりとながらも見えて来るのではないだろうか。
英米の国際銀行家たちが 2022年のロシアとウクライナで実行しようとしていることを、90年代のユーゴ内戦で予行演習していたという意味だ。
ユーゴスラビア社会主義連邦共和国とは?
- ユーゴスラビア王国を起源とし、1943年に成立。
- 国の標語:「Bratstvo i jedinstvo(兄弟愛と統一)
- ユーゴスラビアとは「南スラブ人の国」という意味。汎スラブ主義で、旧ソ連諸国(多くがスラブ系)との親和性が高い。
多民族国家
ユーゴスラビアは次のように形容されることが多い。
7つの国境
- ルーマニア
- ブルガリア
- ギリシャ
- アルバニア
- イタリア
- オーストリア
- ハンガリー
6つの共和国
- セルビア
- スロベニア
- クロアチア
- モンテネグロ
- マケドニア
- ボスニア=ヘルツェゴビナ
5つの民族
- セルビア人
- スロベニア人
- クロアチア人
- モンテネグロ人
- マケドニア人
4つの言語
- セルビア語
- スロベニア語
- クロアチア語
- マケドニア語
3つの宗教
- カトリック
- 正教会
- イスラム教
2つの文字
- ラテン文字
- キリル文字
1つの国家
- ユーゴスラビア社会主義連邦共和国
多様性ある国家ゆえ 分裂の可能性は常に秘めていたが、かつてのユーゴスラビア王家や、その後のカリスマ指導者チトーという存在が、重しの役割を果たして来た。
国家の標語も「兄弟愛と統一」。
ユーゴスラビア内戦とは?
- 1991〜2001年、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国 解体の過程で発生した複数の紛争
- 各民族が互いに「民族浄化」「大量虐殺(ジェノサイド)」
- 国連、米国、NATO軍が介入
- 1995、99年にはNATOによる大規模空爆が実施
→ 国連安保理決議もなく、NATO条約(自衛目的)すらも無視した空爆。無辜の一般国民にも容赦なく浴びせられ、国際社会の非難を浴びた。
※ NHK for School の映像がわかりやすい。
オメガポイントHPより
ユーゴスラビア内戦 - 紛争
スロベニア紛争 | 1991年 |
---|---|
クロアチア紛争 | 19991〜1995年 |
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争 | 1992〜1995年 |
コソボ紛争 | 1996〜1999年 |
マケドニア紛争 | 2001年 |
あまりにも膨大な内容なので、本稿ではボスニア・ヘルツェゴビナ紛争と コソボ紛争を主な舞台として扱っている。
ユーゴスラビア内戦 - 人口
旧ユーゴ人口 | 2200万人 |
---|---|
死者 | 推定 30万人 |
難民 | 推定 350万人 |
戦争広告代理店
ユーゴ内戦(ボスニア紛争)は非常に複雑に見える。
登場する地名も民族名も多いが、どれも日本人には馴染みがない。平均的な日本人が知っているのはストイコビッチ、ミルコクロコップ、オシムくらいだろう。
各民族は互いに虐殺行為
ざっくりな解説をすると、セルビア人、モスレム人、クロアチア人の三者が 互いに虐殺をしあったボスニア内戦。
三者に言い分があるだろうが、三者とも人道的な罪(民族浄化、強制収容所)を犯してもいた。
三者の後ろ盾
セルビア人 | セルビア共和国 |
---|---|
クロアチア人 | クロアチア共和国 |
モスレム人 | なし → 国際社会(米国・NATO) |
戦争PR会社が戦争を変えた
ところが通称 戦争広告代理店(ルーダー・フィン社)とうまく契約できたモスレム人勢力が、米国(国際社会)を味方につけることに成功。
「モスレム人 = 善玉、セルビア人 = 悪玉」
最大の悪役はセルビア共和国のミロシェビッチ大統領。戦争PR会社はヒトラー、フセイン、カダフィと同じく、悪玉の首領として国際社会へ認知させることに成功。
ミロシェビッチ大統領とセルビアは袋叩きに遭う。
戦争PR会社がユーゴ内戦の裏舞台でいかに暗躍したかは、NHKのジャーナリスト高木徹氏の「戦争広告代理店」をご覧頂きたい。
「悪玉 = セルビア人・ミロシェビッチ大統領」
ユーゴを経済的に制圧したいIMFや、バルカン半島に旧ソ連圏への軍事的足場を築きたいNATOにとって、ミロシェビッチ大統領*は邪魔者であった。
これは「戦争広告代理店」で言及されていることではなく、本稿筆者の見方だが、2022年ウクライナ危機では、ロシアのプーチン大統領がかつてのミロシェビッチたちと同じような扱いを国際メディアから受けているように見える。
*スロボダン・ミロシェビッチ - セルビア大統領、ユーゴスラビア連邦共和国大統領を歴任。国際戦犯法廷において「人道上の罪」を問われていたが、2006年ハーグで勾留中に突然、謎の獄死。
NATO空爆背景① - 東方拡大
西側陣営の自衛グループであったはずのNATOが、なぜユーゴスラビアを空爆したのか?
NATOによるユーゴ空爆 - 3つの理由
90年代のバルカン半島では、泥沼の内戦の上、NATOが空爆というジェノサイドを強行。まさしくカオス。
英米が大きく影響力を持つNATOが ユーゴスラビア空爆を決行した背景には、大きく三つの動機があった。
- 冷戦崩壊で役割を終えたNATOの新たな存続理由の捏造
- 東西緩衝地帯の役割終了
→ ロシアへの前線基地(石油利権も) - ユーゴスラビア型経済モデルの破壊
以下、順番に説明する。
冷戦崩壊 → NATOは存在理由が消滅
まずは 冷戦崩壊後のNATOが、存続理由を必要とした件について。
1991年7月、ワルシャワ条約機構が解散。同年12月に、ソビエト連邦も崩壊。
東西冷戦が終了し、西側にとって脅威であった東側が崩壊。
後年トランプ大統領が指摘したように、NATOはこの時に解散するものと思われた。が、NATOは自身の新たな存続理由を探していた。
NATOを必要とした英米支配層
ソ連という「悪の帝国」がなくなると、「正義の味方」米国率いるNATOを解散せざるを得ない。
しかし、NATOが消滅すると米軍需産業界も、ワシントンにも不都合が生じる。
- 軍需産業界
- 欧州を守るとの名目で配備した米軍基地の維持で潤って来た。 - ワシントン
- 各国の首都近くに米軍基地を常駐させることで、無言の圧力を欧州大陸にかけられる。
NATOを通じた欧州の軍事支配を、英米の支配層がやめるはずはなかった。
NATO「域外派兵」
1993年、リチャード・ルーガー上院議員のプレスリリースのタイトルにこうあった。
NATOの選択:域外派兵か、失業か
そこでNATOには「域外派兵」という新たな任務が与えられた。この響きには既に NATO東方拡大が匂わされている。
2022ロシア・ウクライナ危機の予兆
すなわちNATOを牛耳る英米の支配層は、最終的にハートランド(ロシア)支配という野心を温存していたことが読み取れる。
事実 1994年設立された「PfP(平和のためのパートナーシップ)」は、旧ワルシャワ条約機構を NATO傘下に順次統合していく計画を描いていた。
やがてこの不安は、ウクライナ危機という形で2014年、2022年に顕在化することになる。
ジョージ・ケナンの警鐘は無視
かつて米外交官 ジョージ・ケナンは、「NATOの東方拡大は厳に慎しまなければならない」との警鐘を鳴らしていた。
NATO延命に成功
いずれにしろ、ユーゴスラビア紛争は NATO存続に絶好のタイミングと理由を提供した。
延命に成功したNATOは、その後ユーゴスラビア、リビア、アフガニスタンと、次々に「域外」を空爆。NATO本来の存在目的は「自衛」のためだったはずだ。
それが事実上の帝国主義を展開しているわけだが、「人権」「市場経済」「民主主義」「平和のため」と報道すれば 何も問題なかった。
NATO空爆背景② - ユーゴ解体 = ロシア征伐の足場
「NATO東方拡大」とは、すなわち「ロシア征伐の足場」を意味する。
石油・地政学上の重要な要衝
地政学上のユーゴスラビアは、非常に重要な地帯。またしてもバルカン半島は国際金融資本から目をつけられていた。
- ソ連崩壊により、東西緩衝地帯としての必要がなくなった
- 「潜在的な石油資源を持つ中央アジアと 欧州を結ぶ 地政学上の重要な位置」に存在
シャッターゾーン
1980年に カリスマ指導者チトー大統領が没した後、融合国家ユーゴスラビアの各民族主義は、外国からの干渉を受けていた。
国家内に民族・宗教・言語などの分断要因が多い地域を 地政学では「シャッターゾーン」と呼ぶ。外国からの分断工作・干渉に遭いやすい。
バルカン半島は、まさにその典型。第一次世界大戦の火薬庫であったし、今回も民族間の対立を外国勢力から煽られた。
*シャッターゾーン - 社会的な分断要因があり、政治的に不安定な地域。分断要因とは、民族・言語・宗教など。大国から分断を利用した干渉を受けやすい。紛争が頻発。
ハートランド(ロシア)への軍事拠点
イングドール氏の説明によると、国際金融資本の狙いは「ユーゴスラビアを自立できないほど小さな国に細分化し、西欧と中央アジアの交差点に、NATOと米国の足場を築きたかった」のである。
足場とは、ハートランド(ロシア)への軍事拠点という意味だ。
NATO空爆背景③ - ユーゴ経済モデルの破壊
冷戦崩壊で、共産主義の経済システムが有効でないことは証明された。
この時点で、東側諸国には西側の資本主義経済システムの他に、もう一つの選択肢が存在。それが「ユーゴスラビアの経済モデル」。
1948年 ユーゴスラビアの終身大統領チトーは、ソ連のスターリンと方針の違いから決別し、独自の経済モデルを築いていた。
ユーゴスラビアの中道的経済モデル
共産党による独裁ではなく、労働者たちによる一定の自主管理(市場経済)が認められ、これがよく機能していた。
アメリカとも対決姿勢を取らず、マーシャルプランも受け入れたユーゴ。ソ連圏よりも自由かつ発展した中道左派の国として、冷戦下では独自の存在感を放っていた。
ユーゴ経済モデルは消したい
IMFを通じて東側の市場を一気に自由化、つまり買収したい英米金融資本。
東側の住民たちに、ユーゴスラビア型という中道的な経済モデルの存在を気付かせるわけにはいかなかった。
IMF介入 → ユーゴ経済が大混乱
ところが、チトーの死後を受け継いだユーゴスラビア首相のマルコビッチは、欧米の新自由主義経済学者たちが主張するショック療法を受け入れてしまった。
IMFからの要求とは「経済構造改革」。ユーゴスラビア経済の自由化・民営化が始まった。
「世界の深層」読者ならもう気付くと思われるが、案の定 IMFの無茶な指導により、ユーゴスラビア経済は大混乱。
IMF政策で1990年のユーゴ経済は崩壊
- GDP7.5%低下
- 1,000社以上の倒産
- 失業率20%
- 実質賃金41%低下
IMFが国営企業の売却、自由化を要求した結果は悲惨。急激なインフレも発生。これ以降もワシントンはユーゴへの経済制裁を主導し、さらに経済は深刻化。
激しい生存競争が国内で開始。ユーゴ国内の各地域は、隣接地域と経済的に争うことになってしまった。
米CIA - ユーゴ内政干渉
冷戦崩壊前夜の1988年には、すでにジョージ・ソロスのオープン・ソサイエティ財団やNED*が、国際金融資本家たちの代理人として、世界的なシャッターゾーン(ユーゴスラビア)に上陸していた。
主な活動は、反体制派や IMFに好意的な反体制派経済学者、若いジャーナリストたちへの資金提供。
名目上はバルカン半島の「民主化」推進。完全に内政干渉だが、西側で報道される時には「民主主義の促進」と翻訳すれば良かった。
*NED - 米国民主主義基金。「他国の民主化を支援」する目的で米国議会が出資し創立。かつてはCIAが担っていた極秘工作を、公然と実行するために誕生したNGO。パナマ、ベネズエラ、ウクライナなどでも工作活動を展開。
東欧カラー革命の先駆け
「カラー革命」で既にご紹介したが、ジョージ・ソロスのオープン・ソサイエティ財団は 21世紀の東欧カラー革命で大活躍。
大学を建設したり、当時はまだ新しかったコピー機を寄付したり、若いジャーナリストに資金提供するなどの手口で各国の保守的政権を打倒し、「親米」政権の樹立を次々に成功。
ここで「親米」とは、米国民のことではなく、米国系国際企業や米国の軍産複合体と関係が深いことを意味する。
かつて共存していた「ユーゴスラビア人」
ユーゴスラビアの人々は、外国から民主化を押し付けられるまでは、それなりに共存し生きて来ていた。
多民族国家でありながらも、「ユーゴスラビア人」を自認する人々は 今でも一定以上いるという。
墓場に帰した五輪会場
1983年開催のサラエヴォ五輪では、チトーの目指した「兄弟愛と統一」の理想を掲げ開催。
しかし1992年に勃発したボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で、かつてのサラエヴォ五輪メインスタジアムは文字通り墓場と化した。
国際社会からの締め出し - 天才ストイコビッチの怒り
日本サッカー界もお世話になったオシム監督率いるユーゴスラビア代表が、かつて国際舞台から追放されたことをご存知だろうか。
スター軍団ユーゴスラビアは、EURO92で優勝候補でありながら、国際サッカー連盟FIFAから国際試合を禁止処分。「政治とスポーツ」は別じゃなかったのか?
「NATO Stop Strikes」と抗議するストイコビッチ(名古屋グランパス)
日本でもおなじみ妖精ピクシーこと天才ストイコビッチは、当時27歳。絶頂期を迎えていた。
あれだけの選手が全盛期を棒に振ったことを、一人のサッカーファミリーとして筆者は絶対に忘れない。
ユーゴスラビア代表チームの友情
国連を牛耳る勢力は、政治とスポーツ分離の原則すらなかったことにした。
しかし唯一の救いは、当時のチームメイトたちが民族の壁を越えて、今でも友情が続いていることだ。
旧ユーゴ圏のサッカーは今も健在
その後、ユーゴスラビア代表の中核であったクロアチアは、98年W杯において日本代表とも対戦。
同大会では優勝国フランスに惜しくも敗れたものの、ドイツ、オランダを破り第3位。バルカンサッカーの名誉を見事回復。
2018年W杯では ついに準優勝を果たし、大会MVPには主将ルカ・モドリッチが輝いた。
NATO空爆 - 国際法無視で一般人を虐殺
話をユーゴ内戦に戻す。
外国からユーゴスラビアにもたらされたもの。
- IMFによる経済混乱
- NGOによる民族分断工作
- 米国務省監視下での選挙実施要求などの内政干渉
NATO「人道的理由」で市民空爆
ミロシェビッチ大統領という独裁者を ヒトラー扱いすることで、ワシントンは米国の介入を正当化。
クリントン大統領はセルビアによるジェノサイドを回避するという「人道的な理由」で、セルビアの一般人を空爆した。
矛盾だらけだ。
(CC BY-SA 3.0)
国際法違反であったNATO空爆
国際法、NATO条約、米合衆国憲法の違反。国連安保理決議はなし。
法を無視し、人道に違反してまでも、遠い異国の空から数千トンもの爆弾を投下した理由とは?
オルブライト米国務長官
かつて米国務長官であるマデレーン・オルブライト女史*は、湾岸戦争におけるイラクへの経済制裁で、50万人もの子供が死亡したというのに「それだけの価値がある」と言ってのけた。狂気だ。
そのオルブライトが国際社会を主導したのが、NATOによるユーゴスラビア空爆。
オルブライト周辺の人物群には、私怨や利権が絡んでいるとの指摘は もっと検証されるべきだろう。
※ オルブライトの師匠であり、クリントン政権の背後で当時暗躍していたブレジンスキー元大統領補佐官(カーター政権)は、「国際石油メジャーの利益を背負っていた」との指摘がある。
*オルブライトのジョージタウン大学時代の教え子が、河野太郎元外務大臣。
デイトン合意
1995年のデイトン合意で一旦戦闘が終結した時には、カスピ海に眠る巨大な油田の潜在能力が これまで以上に巨大であることに、クリントン政権が気付いていた。
クリントン政権がデイトン合意をまとめたのは、平和のためなのか? それとも石油利権のためなのだろうか?
カスピ海油田「新しいサウジアラビア」
カスピ海の石油をパイプラインでバルカン半島を経由して欧州に運ぶ以上、アメリカにとって、バルカン半島はアメリカの統治下である必要性は高まる。
欧州の自立を牽制し、アメリカが欧州の生殺与奪を握るためだ。
「付属文書B」≒「ハルノート」?
米国からセルビアに突きつけられた最後通牒には「付属文書B」なるものが付随。NATOによるユーゴスラビア全土の征服を認めさせる内容であった。
セルビアが飲めるはずがないとわかっていての通知だ。それを合意拒否したという理由で空爆開始。
日本国民としては、第二次世界大戦におけるあの悪名高い「ハルノート」を思い起こさせる手口だ。
付属文書Bの存在が西側の国民に知られるようになったのは、空爆終了後。さすがにドイツでは問題視されたというが、亡くなった子供たちは帰って来ない。
米軍基地の建設
1999年 セルビアへの大規模空爆終了後、米国防総省ペンタゴンは、すかさず世界最大級の米軍基地建設を決定。
カスピ海のバクー油田からバルカン半島を経由し、欧州へと伸びるパイプライン建設の技術調査は、後のブッシュ政権副大統領ディック・チェイニーが経営するハリバートン社が受注。
戦争の民営化
後年、ハリバートン社はイラク復興ビジネスでも大量受注を獲得。戦後の焼け野原=ハリバートン社のマーケット。
空爆で破壊した推定400億ドルものインフラ再建設は、復興ビジネスの巨大マーケットになった。
抵抗勢力にはNATO軍の空爆
ユーゴ空爆以後、英米支配層の意向に逆らうものたちは、正義に反逆するものとして、NATO・米軍という死神が差し向けられるパターンが繰り返されるようになった。
「ペトロダラー・システム、IMFによる世界覇権に歯向かうものには死あるのみ」と言わんばかりだ。
イラク 、リビアの犠牲はまさしくその典型。
プーチン露大統領がペトロダラー・システムに挑むというのならば、次のNATOターゲットになるのはロシア国民とプーチンだろう。
ネオコンは正義なのか?
いずれも米国政界のネオコンが、積極的に米国民を戦争に誘った。
ブッシュ、クリントン、オバマの三代で、1100万人が犠牲になったとの報告もある。無辜の市民を大勢含む1100万人は、本当に「平和のために死んだ」のだろうか?
少なくとも、次の事実は重たい。
- 愛国心ある米国の若者が犠牲
- 軍産複合体が大儲け
- 英米の影響力が東方へ拡大
ロシアが射程距離に
欧州へのエネルギー供給源を力づくで支配し、ロシアとの東西緩衝地帯だった旧ユーゴスラビアには、巨大かつ最新型の米軍基地が誕生。
東欧諸国ではジョージ・ソロスたちの暗躍による「カラー革命」が進行し、次々と「親米」政権が強引に樹立。
いよいよハートランドに 米軍・NATOの足音が聞こえて来た。
ユーゴ空爆 = 対ロシアの予行演習?
今振り返ると、ブッシュが新世界秩序を宣言した1990年代のユーゴスラビア内戦は、ウクライナ危機2022における ロシア攻略への布石、いや予行演習だったのではないだろうか。
次回、石油地政学史11 のテーマは、「プーチンの世界戦略 - 21世紀のグレートゲーム / 英米ドル覇権への挑戦とウクライナ危機」。
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この記事のまとめ
石油地政学史⑩ 1990年代 ユーゴ空爆 - NATO・IMFの敵は軍事制圧- NATOによるユーゴ空爆には大きく3つの理由があった。
- 冷戦崩壊で役割を終えたNATOの新たな存続理由の捏造
- 東西緩衝地帯の役割終了
→ ロシアへの前線基地(石油利権も) - ユーゴスラビア型経済モデルの破壊
- 冷戦崩壊前から米CIAやジョージ・ソロスのオープン・ソサイエティ財団がユーゴスラビア国内で工作活動を開始していた。
- 地政学上シャッターゾーンの典型とされ、民族・宗教・言語など分断要因の多いユーゴスラビアは、外国からの工作や干渉を受けやすかった。
- NATO空爆は 国連安保理決議もなく、国際法、NATO条約そのものにも違反して決行され、兵士でもない一般人に対して行われた大量虐殺(ジェノサイド)との非難がある。