地政学の基礎用語まとめ(ハートランド、リムランド、グレートゲーム 等) - GHQが日本に禁じた学問とは?
更新日:「なぜウクライナ危機は発生したのか?」
「アメリカが日本に軍事基地を置く真の目的は?」
地政学は国家安全保障上、絶対に欠かせない学問。ゆえにGHQは日本人による地政学の研究を禁止。日本の第一人者たちは公職追放され、関連書籍は焚書された。
日本政府もメディアも国民に説明しない(できない?)地政学上の背景を知ることは、我が国の国益に資する。
日本のエリートが軍事学・地政学に通じていないことは大問題なのだ。
地政学とは?
地政学(Geopolitics)とは「19世紀 欧米列強が、帝国主義を展開する上で発展した 軍事戦略の学問」。
地理的条件が国家の政治・経済・軍事に与える影響を研究する。
ハートランド理論 - ランドパワー
ランドパワー | ユーラシア大陸にある大陸国家 - ロシア、ドイツ、中国 |
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提唱者 | 英国のハルフォード・マッキンダー卿 |
特徴 | 道路、鉄道を利用した輸送能力が高い 強い陸軍、徴兵制 農業が社会基盤 |
主張 | ハートランドを制するものは、世界を制する |
ハートランド
- ほぼ現在のロシアの位置に相当。
- 世界最大である アフロ・ユーラシア大陸(世界島)の最奥部にあり、南側は巨大な山脈と広大な砂漠、北側の海岸線は凍結するため 制圧はほぼ不可能。
- 広大な領土ゆえに食糧の自給自足が可能。
かつては欧州を支配したナポレオン、ヒトラーですら撤退した難攻不落エリア。
現在では、莫大な天然資源を保有していることも判明。21世紀でも 欧州のエネルギー供給源であり、マッキンダー卿の時代よりも存在感が増している。
東欧制圧がポイント
マッキンダーは、21世紀のウクライナ危機にも通じる有名な格言を残していた。
東欧を制するものはハートランドを制し、
ハートランドを制するものは世界島を制し、
世界島を制するものは世界を制する。ハルフォード・マッキンダー
南のハートランド
あまり注目されないが、サハラ砂漠以南のアフリカ大陸南方を「南のハートランド」と見ることもできる。居住は困難だが、豊富な天然資源に恵まれている。
金本位制による世界覇権のため、大英帝国は 南アフリカ共和国の金鉱脈とダイアモンドを強奪。海の要衝、希望峰も抑えた。
アラビア半島 - 南北ハートランドの交差点
南北のハートランドを連結するのがアラビア半島。マッキンダーがその重要性を指摘したのは、石油資源の発見よりも早い。つまり、アラビア半島は石油がなくとも重要な拠点。
特にアラビア半島の付け根イスラエルは、地中海にも面しており、東西南北、アジア・欧州を結ぶ世界の中心ともいえる要衝。ゆえに戦争が絶えない。
リムランド
位置 | ハートランドの外円部 (欧州~中東~インド~東アジア)。 日本、台湾、朝鮮半島、インドシナ半島 |
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特徴 | 温暖で雨量も多く、農業が発展 経済活動に適し、人口も多い |
極寒地域であるハートランドが進出したり、大陸に進出するシーパワーが上陸することで衝突も起こりやすい地域。第二次世界大戦は リムランド争奪戦だったとの見方もある。
リムランドを制するものは ハートランドを制し
ハートランドを制するものは 世界の命運を制する。スパイクマン
リムランドとその周辺の別称
危機の弧 | マッキンダー |
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不安定の弧 | 米国防総省 |
自由と繁栄の弧 | 第一次安倍内閣の価値観外交 (麻生外相) |
バッファゾーン
緩衝地帯。大国同士が直接衝突することを防ぐ役割を果たしている地域や国。代理戦争が発生しやすい。
朝鮮半島 | 日本、中国、ロシア |
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バルカン半島 (ユーゴスラビア) | NATO諸国、ロシア |
東欧 (ウクライナ) | NATO諸国、ロシア |
シャッターゾーン
社会的な分断要因があり、政治的に不安定な地域。分断要因とは、民族、言語、宗教など。
位置 | バルカン半島、中東など |
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特徴 | 大国から分断を利用した干渉を受けやすい 紛争が頻発 |
ワールドシー理論 - シーパワー
シーパワー | 国境の多くが海に面する海洋国家 - 日本、英国、米国 |
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提唱者 | 米国の海軍士官アルフレッド・マハン |
特徴 | 長い海岸線と良湾 強い造船業と海軍、志願制 植民地が多い |
主張 | ワールドシーを制するものが、世界を制する |
米国がハートランドを直接制することは不可能。ゆえにマハンがハートランド周辺のリムランド、マージナルシー(後述)を制することで、世界支配できる方法を考案。
海洋国家は海外へ進出しやすいので、世界中で植民地を獲得し帝国を構築。
ワールドシー
太平洋と大西洋という大きな海洋。
ワールドシーにおける世界の物流、軍事行動を支配すれば、世界を制覇できる。現時点ではアメリカの影響力が強い。
マージナルシー
大陸外側の弧状列島、半島、群島に囲まれた海域。つまり、リムランドを囲む海。まさに日本を取り囲む海域。
中曽根総理は日本列島を「不沈空母」と称した。
- ベーリング海
- オホーツク海
- 日本海
- 東シナ海
- 南シナ海
マージナルシーを支配することは、リムランドの支配に繋がる。そして リムランドを支配するものは、ハートランドを制する。
在日米軍基地の意味
米軍がマージナルシー周辺部である横須賀、沖縄に重要拠点を築いているのは、ワールドシーを支配しておくため。日本防衛が真意とは限らない。
シーレーンとチョークポイント
海洋国家が制海権を持つためには シーレーンの安全確保と、そのためのチョークポイント支配が必須。
シーレーン
自国の貿易を守る安全な海上交通路のこと。
7つの海をくまなく支配するのは膨大なコスト。海上交通路シーレーンを確保することが、すなわち海洋の支配を意味する。
日本のシーレーン
日本がシーレーンを安全確保できない場合、石油エネルギーの99.7%が不足。国家の生死に直結する。
台湾、尖閣諸島、沖縄の防衛を絶対に譲歩してはならないし、自衛隊がソマリア沖、アデン湾を防衛する理由だ。
チョークポイント
シーレーンを確保するための要衝となる海峡や運河。低コストの防衛で莫大な効果を望め、通航料も徴収できる。
世界規模では約10ヶ所前後存在し、その多くで英米の影響力が強い。
- マラッカ海峡
- ホルムズ海峡
- スエズ運河
- パナマ運河
大陸 vs 海洋の攻防史
歴史的にランドパワーとシーパワーは衝突を繰り返してきた。
10〜15世紀 | ランドパワー優位 物流は陸路中心 |
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15〜19世紀 | シーパワー優位 大航海時代 スペイン無敵艦隊。大英帝国 |
19〜20世紀 | ランドパワー優位 鉄道網の発達 ドイツ、ロシア台頭 |
20世紀後半 | シーパワー優位 戦勝国アメリカと その同盟国日本が台頭 |
リムランド、マージナルシーでの激突
- 守りに強く、攻めに弱いのがハートランド。ロシアは極寒ゆえに守備は鉄壁だが、不凍港を求め南下政策も実施。
- シーパワーは海上交通の安定のため、ユーラシア大陸周辺の良港・良湾を獲得、維持したい。
ここで両者が衝突するのがリムランドであり、マージナルシー。世界規模の軍事衝突は多くがこのエリア。二次に渡る世界大戦も発生。
1950年~ | 朝鮮戦争 |
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1955年~ | ベトナム戦争 |
1991年~ | 湾岸戦争 |
2001年~ | アフガニスタン戦争 |
2003年~ | イラク戦争 |
「ランドパワーとシーパワーは両立できない」
- ローマ帝国(ランドパワー)海洋進出で国力低下
- 大日本帝国(シーパワー)大陸進出で国力低下
尖閣諸島や沖縄、南シナ海という第一列島線への進出を狙う中国。地政学上のセオリーでは、中国の一帯一路という野望は挫折することがわかっている。
英露「グレートゲーム」
19世紀以降の海洋国家イギリスと、大陸国家ロシアの覇権争いはグレートゲームと称される。両者はチェス盤で陣取り合戦をするかのように、クリミア、アフガニスタンを奪い合った。
日露戦争はグレートゲームの代理戦争
日露戦争は、東アジアにおける英国の補完戦力として扱われた日本が、結果として英国のために戦ったグレートゲームの一環。
ウクライナ危機もグレートゲーム
冷戦とそれ以降のグレートゲームは、米国が英国を引き継ぎ継続。2022年のウクライナ危機もグレートゲームの文脈で理解できる。
今日に継続するグレートゲームについては後日、別稿で言及する。
英国流 バランス・オブ・パワー
勢力均衡戦略。特定国家が突出して強力にならず、勢力を均衡させて国際秩序を守るメカニズム。
かつての大英帝国のお家芸であり、冷戦以降もアメリカがその伝統を継承。
「サクッとわかる教養地政学」より
英国流バランス・オブ・パワー
大陸国家ドイツやロシアが発展すると、フランスをそそのかしたり、独露両者を対決させたりするなどの外交術で力を発揮。漁夫の利を得て来た。
地政学の歴史 - 帝国主義とグローバリズム
地政学(Geopolitics)は、1899年 スウェーデンの政治学者ルドルフ・チェーレンが初めて用いた用語。
国破れて山河あり杜甫
世界の地理は基本的に時代を超えて同じ条件であり、それを前提に各国の戦略は練られている。ゆえに、地政学は現実的な学問だ。
戦争の原因がイデオロギーなどの建前よりも、領土や資源の獲得という本音を 地政学は隠さない。
帝国主義 = グローバリズム
19世紀産業革命で欧州列強が手にしたパワー。列強は帝国主義による植民地政策を促進。海洋国家である大英帝国が全盛期を迎える一方、大陸国家であるドイツ、ロシアも勢力を拡大。
帝国主義という体裁をしたグローバリズムが、欧州列強のパワーバランスを揺るがしていた。
地政学の誕生
こうした背景で地政学の原型が発展。
地政学開祖の一人とされるハルフォード・マッキンダー卿は、英国の覇権が維持されるための道を真剣に考えた。
その結論こそ「ハートランドの支配が世界覇権を決すること」であり、ゆえに英国がソ連を封じる必要性を主張した。
地政学とグローバリズム
こうして振り返ると、地政学の誕生は帝国主義と関係している。帝国主義の最終形態は世界制覇。つまり世界統一政府であり、それはすなわちグローバリズム。
海洋国家 英国のマッキンダー卿が、大陸のハートランド理論を主張したことは興味深い。大英帝国には大陸を牛耳り、世界を覇権する野心があることを示唆している。
別稿で解説する予定だが、英国の世界覇権志向を継承したのが、21世紀の米国である。
英米に潜むグローバリズム
本稿でまとめた地政学は主に英米流の地政学だが、英米の根底にグローバリズムが潜んでいることを感じたのではないだろうか。
極論を言えば、各国が自給自足すれば世界は平和であるはず。帝国主義は植民地から資源・資産を奪う思想だ。
英米の地政学は世界制覇を前提としている。
日本で地政学は禁止
敗戦国である日本とドイツにおいて、地政学がタブーとなった理由はなんだろうか。
ドイツ地政学は封印
ドイツの地理学者カール・ハウスホーファーの理論は 日本やナチスにも影響を与えた。
- ドイツがソ連や日本との同盟
- 輸入に依存しない国家経済の自給自足
- 生存圏*
ハウスホーファーの主張は連合国(英米)にとって不都合なものばかり。これでは日独露がそれぞれ発展してしまうし、ユーラシア同盟を結成されてしまえば手がつけられない。
ハウスホーファーはナチスを正当化したとの理由で批判を受け、戦後まもなく自殺。以後、ドイツにおいて地政学はタブー扱い。
*生存圏 - 国家が生存するために必要な政治的支配が及ぶ領土。人口増加に伴い資源が必要になれば、その生存圏を拡張するのは国家の権利であるとも主張した。
日本の取るべき進路
彼を知り己を知れば百戦殆うからず孫子
GHQは日本での地政学を禁じ、焚書までした。GHQは日本国民が地政学の意味を理解することを非常に恐れたのである。それはGHQ、在日米軍の正体を知られることでもあったからだ。
21世紀の日本人は 今こそ地政学を再発見すべき時だ。日本は地政学上、世界覇権の趨勢を決する要衝なのだから。
そして地政学を学ぶことは、日本のアイデンティティを深化させてくれるはずだ。
この記事のまとめ
地政学の基礎用語まとめ(ハートランド、リムランド、グレートゲーム 等) - GHQが日本に禁じた学問とは?- 地政学とは「19世紀 欧米列強が、帝国主義を展開する上で発展した 軍事戦略の学問」
- ランドパワー理論「ハートランドを制するものが、世界を制する」
- シーパワー理論「ワールドシーを制するものが、世界を制する」
- 世界規模衝突の多くがリムランド、マージナルシーで発生する
- 帝国主義=グローバリズム
- 日本はGHQに禁じられた地政学を学び直す必要がある