『コールダー・ウォー』マリン・カツサ著・渡辺惣樹訳 が文庫化!- ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争
更新日:2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻したことで世界中に緊張が走った。平和ボケを自認する我が日本国のメディアですら、ウクライナ危機を連日報道する衝撃。
しかしその背景説明は雑。露大統領プーチンが狂ったとしか説明されない。
- ウクライナ危機の真実とは何なのか?
- プーチンは何と闘っているのか?
マスコミ報道にうさん臭さを感じたことがある方は、本稿でご紹介する「コールダー・ウォー」を必ず手に取って頂きたい。
初版が2015年だが、まるで2022年に起こる出来事をとっくに予見していたかのようだ。
世界観・近現代史観が必ず激変する。世界観・近現代史観が変われば、人生観も変わる。本稿に出会ったのも何かのご縁だろう。人生のドアをノックしてみてほしい。
※ 本書は2015年に上梓された単行本が、2022年8月に文庫化されたもの。
「コールダー・ウォー」から得られるもの
歴史を知らない者には、現状分析も将来予測もできないのである。渡辺惣樹
「コールダー・ウォー」から得られるもの
- 世界の本当の構造がわかる
- プーチンが何と闘っているのかわかる
- 次の世界秩序を予測する軸ができる
- ペトロダラー・システムがわかる
日本の言論空間でほぼ無視される石油と地政学。これこそ我が国がグローバル化を叫びながら、国際オンチであり続ける一因。
しかし、本書コールダー・ウォーを一読するだけで、その視野は完全に生まれ変わるだろう。
コールダーウォーを読むべき人
- ある程度教養はあるつもりなのに、今の世界が本当はどうなっているのか? 実はわからない。
- 国際ニュースで見る事件の背景がまったくわからないまま大人になってしまった。
- 次の国際経済トレンドを予測したい。
こうした悩みは、この一冊で大きく改善する方が多いと思われる。
コールダー・ウォー(超冷戦)はファクトに基づいた一冊
コールダーウォーの内容は、ほとんどの日本人には目から鱗。かと言って突拍子もない話ではなく、客観的な事実やデータと、冷徹な分析に基づいている。
なんなら世界経済の次のトレンドが読める重要な鍵も与えられる。投資を考えている方にも需要がある一冊だろう。
21世紀に継承されている英米露グレートゲームの正体を知ることで、国際情勢の本当の見方がわかるからだ。
国際的リーダーたちのリアルな判断基準
左右のイデオロギーなどという茶番でなく、世界各国のプレーヤーたちが「本当は何を軸にして国際舞台というチェス盤で演技しているのか?」がわかる。
日本人からはカオスだった中東情勢ですら、この一冊で随分シンプルな理解が進むようになる。
「ペトロダラー・システム」
本書のキーワードは「ペトロダラー・システム」。
その背景にあるのは、次の三点。これはまさに大英帝国が支配していたものと一致する。
- 金融
- 資源
- 軍事力
ユーラシア大陸連合
後述するが、プーチン大統領がその就任前から目指していたものこそ、このペトロダラー・システム米一極覇権への挑戦。
本サイトの「ハートランド」記事をお読み頂くと理解がグッと深まるが、プーチンは自国の豊かな資源を武器に、広大なユーラシア連合を築こうとしているのだ。
「二つの混乱」- プーチンと米国保守が闘うものとは?
翻訳者である渡辺惣樹氏のあとがきも重要。一つだけ紹介すると、そこで言及されているのが「二つの混乱」。
「二つの混乱」- 米国真正保守が闘うFRBとネオコン
二つの混乱とは、21世紀の米国保守層が闘っている対象だ。
- FRBによる放漫な貨幣政策
- 世界の警察官外交
(F.ルーズベルトが完成させた過度な干渉主義的外交)
プーチンの世界戦略 - ネオリベとネオコン支配の打倒
渡辺氏によると、この二つの混乱を理解できなければ、プーチンの進める世界戦略の本質がわからないという。
プーチンの長期戦略とは、要するに米国の新自由主義(ネオリベ ) と 新保守主義(ネオコン)的 世界支配戦略への挑戦なのだ。
ネオリベ、ネオコンは共に新型共産主義。日本ではプーチンと旧ソ連を混同しがちだが、実際にはプーチンは共産主義と闘っているとも言えることがわかる。
露プーチンと米保守の共通項
この一点を知れただけでも、本書の意味は大きい。銀行家たちに支配された全米のマスメディアが、なぜトランプ米大統領にロシアゲートを仕掛けたのかも透けて見える。
「彼ら」はトランプとプーチンが手を結ぶことを恐れたのだ。米露のトップが共にナショナリストで、互いを好意的に見ていただけでも「彼ら」には悪夢だったことだろう。
こうして俯瞰すると、露プーチンと 米国の保守層が闘う対象が、実は共通していたことが見えて来る。
ロン・ポール元下院議員 - ティーパーティー重鎮からの推薦文
そもそも渡辺惣樹氏が本書を初めて目にし、購入するきっかけとなったのは米国保守層による草の根運動ティーパーティーのアイコンである、ロン・ポール元下院議員*の推薦文であったという。
どういう内容かは、ぜひ本書を手に取り確認してみてほしい。
*ロン・ポール - 2007年ティーパーティー運動のきっかけを作った保守派の重鎮。有力候補として大統領選にも出馬した。次男ランド・ポールは共和党の上院議員。
米国の希望
渡辺氏が指摘しているが、アメリカに光明があるとすれば、「二つの混乱」を認識し、反対している若年層が拡大していること。
そして、そうした読者層により、本書「コールダー・ウォー」が全米でベストセラーになったことであるという。
著者プロフィール - マリン・カツサ(Marin Katusa)
- ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)卒業。
- ケイシー・リサーチセンター・エネルギー部門主任研究員。
- エネルギー産業に特化した投資ファンドマネージャーとして大きな成功を収める。
※ 草思社HPより一部抜粋。
Katusa Reaserch - マリン・カツサ氏が経営する独立系の投資調査会社。特に資源エネルギー分野におけるマリン氏の調査力、分析力は大きな評価を得ている。
著名投資家ロバート・キヨサキ氏と共演
訳者プロフィール - 渡辺 惣樹(わたなべ・そうき)
- 日米近現代史研究家
- 北米在住
- 1954年静岡県下田市出身
- 77年東京大学経済学部卒業
- 30年にわたり米国・カナダでビジネスに従事。米英史料を広く渉猟し、日本開国以来の日米関係を新たな視点でとらえた著書が高く評価される。
- 『日米衝突の萌芽1898-1918』で第22回山本七平賞奨励賞を受賞。
※ 草思社HPより一部抜粋。
参政党の神谷議員、人気予備校講師の茂木誠氏と共演
渡辺惣樹氏の著書
- アメリカの対日政策を読み解く
- 戦争を始めるのは誰か 歴史修正主義の真実
- 真珠湾と原爆 日米戦争を望んだのは誰か ルーズベルトとスチムソン
- 英国の闇 チャーチル
- 「正義の戦争」は嘘だらけ!ネオコン対プーチン
- 公文書が明かすアメリカの巨悪――フェイクニュースにされた「陰謀論」の真実
- 教科書に書けないグローバリストの近現代史 - 茂木誠氏との共著
- 戦後支配の正体 1945-2020 - 宮崎正弘氏との共著
どの著作も渡辺惣樹氏だからこそ書けたものばかり。
それもそのはず。馬渕睦夫元ウクライナ大使をして「米近現代史を語らせるのに、この方の右に出る者はいない」と言わしめた この分野の第一人者なのだから。
渡辺惣樹氏の翻訳書
翻訳した海外書籍も重要な作品ばかり。
「コールダー・ウォー」の紹介文
草思社HPで本書はこう紹介されている。
東西冷戦をはるかに超えた熾烈な戦いが始まった。
ロシア・プーチンは膨大なエネルギー資源を武器に、アメリカ覇権の核心たるペトロダラーシステム(ドルベースの資源取引)を打ち砕き、大ロシア帝国を再興するべく世界各地で着々と歩を進めている。」
- 自国の膨大なエネルギー資源を武器に、アメリカのペトラダラー支配の崩壊を目論むプーチンの恐るべき戦略。
- 現在の危機を見通すかの洞察に富む全米ベストセラー。
- プーチンが仕掛ける新冷戦(コールダー・ウォー)が、アメリカの覇権を終焉させる!?
「コールダー・ウォー」の目次
以下は本書の目次に、本稿筆者がコメントをつけたもの。
- 第1章 失われた十年の終わり
- プーチンがロシア大統領になるまでの軌跡とサンクトペテルブルク・ボーイズ - 第2章 新興財閥(オリガリヒ)との戦い
- プーチンがホドルコフスキーなどオリガルヒと闘い、手懐け、権力基盤を固めるまで - 第3章 グレートゲームと新冷戦
- 貨幣の歴史、ペトロダラー・システムの誕生 - 第4章 スラブ戦士プーチンの登場
- プーチンの幼少期、スパイ時代 - 第5章 ウクライナ問題
- プーチンのウクライナ観、ロシアの安全保障 - 第6章 プーチン分析
- ユーラシアユニオン構想 - 第7章 プーチンの石油戦略
- ロスネフチ社 - 第8章 天然ガス戦略
- ガスプロム社 - 第9章 ウラン戦略
- ロシアが生殺与奪を握る世界 - 第10章 対中東戦略
- 中東各国の分析 - 第11章 黄昏のペトロダラーシステム
- アメリカの経済制裁でアメリカの覇権が綻びる - 第12章 ペトロダラーシステム崩壊後の世界
- ルーブル?元?次の世界通貨システム - 日本語版のための最終章
- シェール革命で石油を取り巻く環境はどう動いたか?
「コールダー・ウォー」でチェックしてみて欲しい点
我が国が政策を判断する上で、プーチン大統領以上に重要な人物は 米国大統領くらいしかいないだろう。
それなのに詳しいプーチン分析をした書籍は見当たらない。日本のメディアは、日本国民にプーチンの素顔を知らせたくないのだろうか。
これだけでも「コールダーウォー」は希有な一冊と言える。
本書では、ぜひ次の点をチェックしてみてほしい。これ以外にも 本当はここで挙げたい点は 数え切れない。
- プーチンが表舞台に登場するまでの経緯
- プーチンのグランドデザイン10の原則
- プーチンの合理的かつ天才的な政治バランスと壮大なビジョン
- プーチン・ロシアが描く世界のパイプライン構想とその背景
- プーチンが日本・極東をどう見ているか
- ペトロダラー・システム
- 1997年プーチン論文の要旨5点
- 経済制裁の抜け道
プーチンの恐るべき能力
著者マリン・カツサ氏が本書を執筆した意図とは違うと思うが、本稿筆者が「コールダー・ウォー」を読みながら強く思ったのは、プーチンの天才ぶり。
いたずらに絶賛したいのではない。ある意味では、この男が日本の敵になればと背筋が凍るような能力を本当に有しているのだ。
- 本当の世界支配構造をハッキリ理解し、
- 自国の武器をしっかり認識した上で、
- 現実的かつ野心的な世界戦略を具体的に構築しただけでなく、
- 大国ロシアのトップに上り詰め、
- 政権内外を完全に掌握し、
- 自身が描いた世界戦略を実行
実際にロスチャイルドやアメリカという化け物と付き合い、一方では闘っている。
恐るべきリーダーシップ
パイプラインを一本欧州向けに設置するだけで、どれだけ巨大な国家プロジェクトかわかるだろうか。
「良きに計らえ」「やってみなはれ」でなく、プーチンは一つ一つのパイプラインに緻密な戦略と、壮大な野望を詰め込んでいる。
恐るべきリーダーシップだ。
かつてローマ帝国では政治家とは軍人であり、哲学者であり、科学者、詩人であった。
プーチンは、まるで歴史絵巻から出て来たようではないか。
日本で対抗できる人材はいるのか?
普通は上記のどれか一つなしただけで歴史の偉人。もちろん強力なブレーンや、有能なチームがあってこそだが、やはりプーチンに拠るところが大きい。
これでドイツ語を駆使してメルケルさえ手懐け、世界中の石油マフィア、黒いネットワークと渡り合うのだ。しかも、暗殺の危険は一生つきまとう。
岸田文雄、はたして今の我が総理が 対峙できる人物なのか。
プーチンと深い信頼関係を築いたという安倍晋三元総理大臣。そのスケール、プレッシャー、偉大さが、今更ながらしみじみと伝わる一冊だ。
※ プーチンは柔道の黒帯で、ピアノの腕前も凄いが、これはおまけにすぎない。
「コールダー・ウォー」を拝読して
歴史を知らない者には、現状分析も将来予測もできないのである。渡辺惣樹
先の大戦からもうすぐ80年を迎えるが、未だに我が国はその後遺症に苦しんでいる。一体あの戦争はなんだったのか?
思えば我が国もまた、石油資源戦争に巻き込まれていたのだ。そして21世紀の今も、我が国は資源戦争の渦中にあり、もう一度戦火にさらされかねない危機下にある。
この国難のタイミングで、渡辺惣樹氏がマリン・カツサ氏の全米ベストセラーを邦訳し、日本に紹介した意義は非常に大きいと言わざるを得ない。
日本のメディアが報道すべき歴史的一冊
本サイトでも石油地政学史シリーズを連載中だが、石油を中心とした資源戦略を日本国民が広く共有することで、あるいは我が国も国難を回避できるかもしれない。
国を少しでも憂う心をお持ちのメディア関係者がいらっしゃれば、必ず「コールダー・ウォー」を取り上げて頂きたい。
TV、新聞が石油地政学に関する内容を報道しないことに、今更ながら背筋の凍る想いである。
日本のメディアが認識していない超冷戦
冷徹な国際舞台で石油地政学は常識の内容だが、一体我が国の政治家・官僚はどこまで承知しているのか。
今回のウクライナ危機報道で、日本のメディア関係者、言論人ですら石油地政学に関する常識を持ち合わせていなかったことが判明し、筆者は愕然とした。
日本人はペトロダラー戦争の当事者
一般読者諸氏も まずは自ら「コールダー・ウォー」をお手に取り、周囲に発信してほしい。石油地政学の問題は、一部の教養人だけが知っておけば良いものではない。
私たち日本人こそペトロダラーを支えている当事者なのだ。
私たちが日々稼いだ黒字は米国債となり、英米の銀行家たちに献上されている。そうした意味では被害者とも言える。
悪魔は正体がバレると その能力を失うという。私たちが真実を知ることは 必ずこの世界を良くするはずだ。
本書を拝読し、改めて石油地政学の発信に背中を押されたように感じた。マリン・カツサ氏、渡辺惣樹氏にこの場で感謝申し上げたい。
※ なお本書は、ウィリアム・イングドール氏著「ロックフェラーの完全支配 ジオポリティクス(石油・戦争)編」と合わせて読むことを強くおすすめする。
■ 石油地政学史まとめ