脱北者「李ヒョンスン」インタビュー④ 金正恩と北朝鮮幹部は中国と韓国が大嫌い / 北の核の矛先は韓国 / 日本製品とアメリカに憧れ
更新日:脱北者「李ヒョンスン」氏のインタビュー全文(書き起こし)その4。
前回 その3では「北朝鮮社会と朝鮮人民軍の現状」について お伝えしました。
今回は
- 金正恩と北朝鮮幹部は、中国(習近平)のことが大嫌い
- 金正恩と北朝鮮幹部は、韓国(とくに左派政権)のことが大嫌い
- 北朝鮮(金一族)の核ミサイルは、韓国を狙ったもの
- 金正恩と北朝鮮幹部は、日本製品が大好き
- 金正恩と北朝鮮幹部は、アメリカに憧れを抱いている
- 開城工業団地は、奴隷の巣窟
に関する内容です。
次には、北朝鮮エリートたちの、日本・韓国・米国・中国に対する視角* について申し上げます。
* 視角:考え方、捉え方、視点
中国は、北朝鮮への影響力がさほど無い
聴衆の皆さんは
- 中国と北朝鮮は 非常に密接な関係
- 堅固な同盟を結んでいる
- 中国は北朝鮮へ、多くの影響力を行使することができる
と思っているのでしょうが、これは非常に誤った認識です。
もちろん一般論として
- 中国が北朝鮮の対外貿易の90%を占めている
- 中国の援助も受けている
ため、「中国は北朝鮮への影響力がある」と考えることもできます。
張成沢の処刑 以前までは、北朝鮮エリート層は 中国とのビジネスを多く展開。中国に対する好感度が高かったのも事実です。私も中国とビジネスをしており、エリートたちに「親中」の雰囲気がありました。
北のエリートたちは「北朝鮮が、経済を開放する中国のようなシステムでなければならない」と考えています。
金正恩は反中。中国(習近平)が大嫌い
しかし金正恩は、中国に対して強烈な反中姿勢。
その理由は、中国政府が30年間 改革開放するように圧力をかけながらも、北朝鮮の軍事的挑発や核実験については ずっと反対の意思を表明していた為です。
北朝鮮は中国のことを 本当に嫌っていました。
習近平を犬だと罵倒する金正恩
2014年7月、習近平主席が韓国を訪問。習主席が朴槿恵大統領へ会うやいなや、金正恩は多くの将軍たちが集まった場で「習近平犬野郎*」と罵倒。
* 犬野郎 - 犬は朝鮮語で悪口
「中国とのすべてのビジネスを中断して、ロシアと東南アジアでの交流をしろ」と指示を出したのです。
中国のことが大嫌いな金正恩
市場規模や価格競争・輸送条件を見ると、中国市場が はるかに有利。その指示に対して 多くの幹部たちは納得していませんでした。それほど、金正恩は中国を嫌っていたのです。今でも金正恩は中国を嫌っています。
中国と北朝鮮の外交関係をみると、中国の高位級外交、軍事、経済使節との交流が ほとんどありません。
北朝鮮幹部たちは、日本・アメリカをどう認識しているのか
第二は、日本とアメリカに対する北朝鮮エリートの視角です。
日米は敵だというプロパガンダ
北朝鮮は、日本とアメリカを「百年の宿敵」だと宣伝しています。
日本とアメリカに対する憎悪心を育て、両国を北朝鮮人民の「共通の敵」として設定。北朝鮮の住民たちを団結させ、核武装を正当化しています。
日本製品を最高だと考える北朝鮮幹部たち
しかしながら、実質的には 日本とアメリカへ非常に憧れています。北朝鮮エリートたちは、日本の製品と技術に とても大きな関心があります。
日本製品を最高だと考えており、北朝鮮の高位層が最も愛するタバコは、日本国内向けMild SevenのSeven Starです。
今でも韓国製品が多く北朝鮮へ入ってきますが、エリートたちは 日本製品をより好みます。
彼らは韓国と中国の経済発展過程において、日本の技術・資本の投資が多くあったことを知っているためです。もし北朝鮮が開放されたならば、日本との協力を期待しています。
日本のことが大好きな金正恩
金正恩が日本に対して愛着を持っていることは知られています。もちろん、彼の母が在日コリアンである影響もあるでしょう。
金正恩が国家の最高プロジェクトとして考えている、原山 - 金剛山 観光地区プロジェクトの主な顧客は、まさに日本の観光客です。
アメリカに憧れを抱いている北朝鮮幹部たち
そして北朝鮮エリートたちは、米国に対しても 強い憧れを抱いています。
彼らは、韓国が米国の保護下で経済成長するのを見てきました。米国との外交関係樹立が北朝鮮へもたらす効果を よく知っています。
また、米国が朝鮮半島問題解決の決定権を握っていると認識。アメリカの経済力・軍事力・技術力についても ある程度の知識を持っており、米国が世界No. 1であることを信じて疑いません。
北朝鮮(金一族)の最大の敵は、韓国
第三は、韓国に対する北朝鮮エリートたちの視角を申し上げます。
北朝鮮政権は、常に「私たち朝鮮民族の統一を成し、私たち朝鮮民族同士で平和を成し遂げなければならない」と宣伝しています。
しかし これは、韓国をだまし、米軍を撤収させ、朝鮮半島の武力統一を成し遂げようとする単純なトリック。金一族政権の最大の敵は、米国でもなく、日本でもなく、まさに韓国に他なりません。
北の核ミサイルの矛先は、韓国
韓国人は「北朝鮮の核開発や武器開発は、韓国に向けてではなく 米国を狙っている」という 安直な思いを持っています。
しかし 金一族政権の敵は1950年の朝鮮戦争時と同様、今 この瞬間も韓国です。まさに韓国の存在自体が、金正恩政権の敵なのです。
韓国人・韓国製品・韓国文化にふれると、懲罰対象
実例を申し上げますと、北朝鮮の人々が海外でアメリカ人や日本人、中国人と会ってご飯を食べ、話しをしても 大きく処罰されません。しかし韓国人に会ったことが発覚したら、厳重な処罰を受けます。
そして、アメリカ製品・日本製品を北朝鮮へ輸入することは政権が止めません。しかし韓国については、すべてのものを制限します。
私は祖母に、中国からサムスンのテレビを送ったのですが、北朝鮮の税関で没収されました。「韓国製品」という理由でです。
後に 日本製パナソニックのテレビを送ったところ、無事通過しました。韓国ドラマを見た人は、アメリカ映画を見た人よりも 大きな罰を受けます。
このように、北朝鮮内部のすべてが 韓国を「最大の敵」と規定しています。私も軍隊で このような教育を受けました。
「戦争が起こった場合、北朝鮮に協力しない韓国の国民は、すべて殺さなければならない」とも言っています。
開城工業団地は、強制労働者(奴隷)の巣窟
韓国では開城工業団地が、まるで「平和の象徴」のように捉えられています。しかし私から見ると、開城工業団地は 現代版 "奴隷" 工業団地。
労働者が職業選択の自由なく強制的に動員され、1ヶ月分にも満たない給料と約20ドルの物品をもらい、鉄条網に閉じ込められ、軍人たちが見張る収容所のような空間で作業をしています。
北朝鮮エリートの中には、開城工業団地の契約は失敗したと考えている人が 非常に多いです。
北朝鮮幹部たちは、韓国からの投資を受け入れたくない
また、韓国は「朝鮮半島が統一されると、韓国が北朝鮮へ投資し、韓国が北朝鮮をコントロールする」と考えていますが、大きな誤算です。
北朝鮮エリートたちは、もし北朝鮮が経済を開放すれば、韓国からの投資は 夢にも思っていません。むしろ、米国の資本、日本の技術、中国の市場を考えています。
彼らは 韓国の経済的奴隷となるよりは、「米国・日本・中国と協力すること」が 自らの権力維持に役立つと考えているのです。
北朝鮮幹部は、韓国の左派政権が大嫌い
そして北朝鮮エリートたちは、韓国の左派政権を非常に嫌います。理由は、韓国の左派政権による平和協力のせいで粛清された仲間が、かなり多いためです。
2000年代初頭から韓国を訪問し、韓国との対話協力を議論していた北朝鮮役人のほとんどが処刑されました。
金一族政権の内部政策は、韓国との「平和協力」ではなく「武力統一」。そのため北朝鮮エリートたちは、韓国との対話自体に消極的です。
韓国左派政権が「北朝鮮へ金銭的・物質的な支援をすると言うので対話に応じる」ということであり、「純粋な協力・統一を議論する気は 毛頭ない」というのが、北朝鮮の本音です。