食糧兵器の実態 - 米国内農業支配「アグリビジネス垂直統合」と「緑の革命」について
更新日:石油を支配すれば、諸国を支配できる。 食糧を支配すれば、人類を支配できる。ヘンリー・キッシンジャー
食糧は、核、石油に続く「第三の戦略物資」。
食糧さえ支配すれば、80億人類の生殺与奪を手にする。
20世紀初頭には「食糧=兵器」という 恐るべき優生思想に基づく戦略が誕生。
1970年代には、それが「アグリビジネス」「緑の革命」という姿で世に現れた。
食糧支配のグランドデザイン - 米国内統合編
キッシンジャーの食糧兵器プランは、自国内の規制緩和と、各国への自由貿易押しつけで進められた。
- 国内「規制緩和」
- 米国内のアグリビジネス垂直統合 - 国外「自由貿易」
- 各国を米国産穀物依存にさせる
本稿では、食糧メジャーによる「アグリビジネス」が米国内農業の垂直統合を達成した経緯を辿ってみる。
アグリビジネスが米国の伝統的家庭農家を追放し、国内農業を支配する上で有効だった武器が「緑の革命」であった。
アグリビジネスとは?
「Agriculture(農業)」「Business(事業)」を組み合わせた造語。
1950年代後半に、ハーバード大学教授である R.ゴールドバーグ、ジョン・デイビスたちが「アグリビジネス」という呼称を使い始めた。
アグリビジネスという概念の核心は、食糧生産の「垂直統合」。
種子開発から始まり、加工、流通、販売、融資に至るまでの生産過程を自社グループ内で一手に完結。
食糧関連産業を、根元から独占支配するビジネスモデルだ。
石油業界 - 垂直統合の先例
「垂直統合ビジネスモデル」は、ロックフェラーがスタンダードオイル社で石油業界を支配した手法。
石油という必需品産業界の上流から下流までを垂直に統合したノウハウ。それを、そのまま食糧業界に持ち込んだのだ。
ロックフェラーは採掘、精製・加工、流通、販売までを、全てスタンダード石油グループ内で完結させるシステムを開発。
垂直統合の徹底
当時、スタンダード石油社は 米国石油市場の84%を支配。
同社のメインバンクであるチェイス銀行のオーナーも、やはりロックフェラー。
産業界・ビジネスを根元から支配する戦略は 徹底されている。
石油マネーを農業へ投資
そして 農業界に大量投下されたのは、ロックフェラーが二次の世界大戦で獲得したマネー。
石油地政学史をご覧頂きたいが、第一次、二次ともに石油資源の有無で趨勢が決まっている。
当時、世界の石油を垂直統合支配していた存在が、まさにロックフェラーだった。
米国農業の支配は、そのロックフェラーのオイルマネーで始まっている。
アグリビジネスで儲かった石油メジャー
アグリビジネスでは大量の石油を消費する。
- 農薬
- 化学肥料
- 農業機械
- 灌漑(かんがい)事業
石油業界が、アグリビジネスという新しいビジネスフロンティアを開拓したのだ。
私たちの食糧を生産するはずのアグリビジネスに、「石油」が欠かせない要素であることは興味深い。
6大穀物メジャーによる、世界の食糧独占
1974年に世界が食糧危機へ陥った時、世界の全穀物貯蔵の95%が6社の多国籍アグリビジネス企業の支配下にあった。
そのすべてが アメリカに本拠地がある企業ばかり。彼らはいずれ世界的食糧危機が訪れることを予期していたのだろうか。
- ADM社
- ブンゲ社
- カーギル社
- ドレフュス社
- クックインダストリー社
- コンチネンタル・グレイン社
緑の革命とは?
緑の革命とは、1960年代までに品種改良と科学技術の導入により、穀物の収穫量が飛躍的に増加したという農業革命。
- 農薬・化学肥料の開発
- 農業器具の機械化
- 品種改良種子 - 後に遺伝子組換え(GMO)種子へ
緑の革命 = 石油ビジネス革命
農薬、化学肥料、トラクターなどに利用される米国の石油化学と機械産業界は大いに恵みを享受。
石油から殺虫剤、除草剤を製造するのだから、緑の革命は 石油ビジネス革命でもあった。
緑の革命 = 化学革命
緑の革命は、ロックフェラーの仲間たちにも恩恵を与えた。
第二次世界大戦後、化学産業界ではドイツのIGファルベンが解体されたことで、米国の四大化学企業が世界の頂点に君臨。
- デュポン社
- ダウケミカル社
- モンサント社
- ハーキュリーズ・パウダー社
これらの企業は いずれも戦場の弾薬を製造していた、いわゆる死の商人たち。
死の商人が農業へ進出
しかし米国の化学産業界は、世界大戦が終わってしまったことで、弾薬の原料として生産された窒素の行き場をなくしていた。
一方、窒素は硝酸塩肥料の主成分でもある。
緑の革命は、弾薬製造を生業としてきた死の商人たちに、窒素肥料ビジネスという新たなマーケットを提供したのだ。
緑の革命 = 石油依存化
アグリビジネスと緑の革命は、化学肥料や農業機械など、石油市場の新たなフロンティアを開拓。
米国で成功をおさめたアグリビジネス は、後に海外へと展開される。
これは途上国の農業がアグリビジネス化することで、石油メジャーへの依存を強めたことを意味している。
石油メジャーの力に頼らなければ、アグリビジネス化された自国の農業を維持できない状態に追いやられたわけだ。
緑の革命 - 負の側面
緑の革命には、いくつもの問題点が指摘されていることも付け加えておきたい。
- 環境破壊
- 農薬汚染 - 砂漠化
- 大量の水を使用 - 収穫量増加が最初だけ
- 国土のモノカルチャー化
- 品種の多様性破壊 - 深刻な貧富格差拡大
- アグリビジネス企業だけが儲かる仕組み(農民は貧困化)
アグリビジネス垂直統合 - マネー合理化の罠
各サークルの半径は数百m〜1kmある カンザス州上空よりNASA撮影
1970年代、ニクソン政権で進んだのは、米国内に根付いていた伝統的な家族経営農家の破壊。経営破綻した農場は、巨大アグリビジネス企業傘下に統合させた。
伝統的家族農業 | 労働集約型 |
---|---|
農作物工場 (ファクトリーファーム) | 資本集約型 |
緑の革命に必要なのは、肥沃で広大な土地。
効率よく大規模な化学農業が実行できるよう、豊かな農家は狙われた。
合理化が農業破壊のセールストーク
米国民を欺き「小さな政府」へ誘導したセールストークは、「効率化」「規模の経済」。
政府の規制を緩和させた上で、大資本が政府に代わり事実上の規制者になってしまう。グローバリストたちの常套手段だ。
市場の規制者に納まった大資本は、シェアの大半を奪った上に、新規参入のハードルを上げてしまう。
民営化プロパガンダの始まり
最初に規制緩和や民営化を唱え出したのは、レーガンでもサッチャーでもない。
1973年に出版された「第二次アメリカ革命」というロックフェラー3世の著書に見られるそうだ(日本語版は絶版)。
緑の革命 - 家族農家が廃業へ
家族農家を破壊し、アグリビジネス統合を推し進める上で有効な武器だったのが、まさに「緑の革命」。
アグリビジネスと緑の革命は、一体となって進行した。
農業ビジネス化の誘惑
家族経営農家には「集団主義」を棄て、「農業ビジネス」で貪欲になるよう教育プログラムで扇動。
- 夫・父
- 貪欲に働くことでマネーを手にすることが「家族への愛情」とすり込んだ。 - 女性・青年
- 教育プログラムで、農民が市販品を買いたがるように誘導。
小規模農家に向かない緑の革命農業
その後、新しい技術に投資するローンを組んだ少なくない農家が破産。
大量の農薬、化学肥料、大型農機具。緑の革命型農業は大規模でこそ力を発揮するため、大きな投資が必要だったのだ。
北米上空から、地の果てまで広がるサークルの数々を見たことがあるだろうか。
農薬を飛行機で散布するなど、緑の革命は小さな家族経営農家には向いていない。
結果として、緑の革命は 多くの零細農家を借金苦による廃業へ追いやった。
緑の革命 - 農場はアグリビジネス企業のものへ
緑の革命は収穫量が増大して儲かるという触れ込みだったはずだ。
ただし儲かったのは「アグリビジネス企業」。
借金まみれで次々と廃業に追い込まれ、都市へ流れた「元農家」の選択肢は大きく二つ。
- 製造業界の安い労働力としてグローバル企業に転職
- (もはや自分の所有ではなくなった)巨大アグリビジネス傘下の農薬汚染された土地で雇用される
緑の革命の結果は、貧富の拡大。
一部の成功者を除き、多くの家族経営農家が去った農地は、巨大アグリビジネスの所有となったのだ。
元農民は産業界の安価な労働力に
一方、アグリビジネスと緑の革命は、都市における大量の工場労働者を確保することに 間接的ながら大きく貢献。
産業界の多くも、ロックフェラーやその仲間たちの銀行融資を受けている。
緑の革命で儲かったのは、銀行、石油メジャー、食糧メジャー。すべて国際金融資本の仲間たちだ。
財産を失った家族経営農家は、彼らの労働力に組み込まれた。
地方共同体の破壊
家族農業の破壊は、地域共同体の破壊。
1990年代に米農務長官へ報告されたレポートには、「アグリビジネス化の推進に伴い、地方経済の基盤が衰退し ゴーストタウンが増加した」とあったそうだ。
米労働人口における農業従事者
国民の多くが農民であった米国の農業従事者は、かつての70%からわずか1.3%に減少。1/50以下になってしまった。
1840年 | 約 70% |
---|---|
2017年 | 約 1.3% |
伝統的な独立農家が自由競争をさせられて、巨大アグリビジネス企業に敵うはずがない。
それまで使ったこともなかった機械設備、光熱費、農薬、化学肥料の増加にいつまでも付き合うことはできなかった。
コスト競争で負ける伝統的な家族経営農家の収益は減少し、1979〜98年だけで米国の農家は30万減少している。
田舎に誘致される巨大アグリビジネス
衰退傾向にある田舎町は、雇用を創出するため、巨大アグリビジネス企業の招致に精を出す。
家族農家が去った田舎の農場には、法人税減税などで誘致された巨大なファクトリーファームが誕生。
アグリビジネス = 新奴隷制度?
従業員の中には、元農家が契約社員として転職していることも。
中世農奴が封建領主に仕えたように、元農家たちはカーギル社やADM社などのグローバル企業に仕えた。
アグリビジネスとは、現代の農奴制なのか?
- 企業利益の最大化
- 株主利益の最大化
- コストの最小化
マネーのために、地域コミュニティも、文化も、安全で健康な食品も 全て犠牲となった。
アグリビジネスと緑の革命は海外展開へ
このように、米国内のアグリビジネス垂直統合は、緑の革命を利用してほぼ完成。
穀物を制した次は、畜産業の支配でタンパク質も独占した。
この記事のまとめ
食糧兵器の実態 - 米国内農業支配「アグリビジネス垂直統合」と「緑の革命」について- アグリビジネスという概念の核心は、食糧生産の「垂直統合」。
- 緑の革命とは、1960年代までに品種改良と科学技術の導入により、穀物の収穫量が飛躍的に増大したという農業革命。
- 緑の革命 =「化学革命、石油ビジネス革命、石油依存化」
- アグリビジネスと緑の革命は、一体となって進行。
- アグリビジネス垂直統合が進行することで、多くの家族経営農家が廃業し、農場はアグリビジネス企業に取得された。