鳥インフルエンザ騒動の真実『食肉業界の垂直統合』 - 食糧ショックドクトリン - 畜産編
更新日:石油を支配すれば、諸国を支配できる。 食糧を支配すれば、人類を支配できる。ヘンリー・キッシンジャー
緑の革命と アグリビジネスで生産された穀物。それを消費するのは、人間だけではない。
膨大な量の穀物が、家畜たちの飼料に充てられている。
つまり、穀物を支配したアグリビジネス企業は、家畜業界(タンパク質)の供給も支配下に。
そして アグリビジネス企業が畜産業界も垂直統合するために利用されたのが、鳥や豚のインフルエンザ騒動だった。
CAFO - 家畜の工場生産革命
アグリビジネス農業で生産された遺伝子組み換え大豆、トウモロコシなどの穀物。その多くは、畜産業で牛や豚たちの飼料に多く用いられる。
アグリビジネス企業にとっての重要な消費先が、まさに畜産業界。
グローバル企業家たちは穀物同様、家畜たちの飼育環境にも効率化・合理化を求めた。
CAFOの深刻な実態
CAFO(集中給餌事業、監禁給餌法)*は今日、多くの人々に漠然とだが知られてはいる。
- 生まれてから食肉になるまで、生涯 日光を浴びることのない鶏たち。
- 生まれてから食肉になるまで、生涯 身体と同じ大きさの妊娠用檻から離れられない豚たち。
激安のタンパク質を私たちに提供している現実の裏側を、消費者たる私たちは もう少し知っておくべきかもしれない。
*CAFO - Concentrated Animal Feeding Operation。いわゆるブロイラーなど、密閉空間での経済効率最優先の工業型畜産業。
ファクトリーファーム - 元農家たちの土地を利用
前回 米国内農業支配 - 「アグリビジネス垂直統合」と「緑の革命」 で言及したように、経営難に追い詰められた農家が手放した農地には、アグリビジネス企業が進出。
アグリビジネス企業は、そこに「ファクトリーファーム」と呼ばれる効率的な工場式畜産システムを建設。
あたかも工場で計画的に機械製品を生産するかのように、大量の家畜をより短期間で飼育し、精肉を加工。
賃金の安い不法移民を利用するなど、コスト管理は徹底的。
過密空間で発生する問題
伝統的に、広大な牧草地で放牧され、大地の草を食べ、一頭ずつケアされて来た牛や豚、鶏たち。それを工場内に可能な限り詰め込む。
このマネー至上主義が、いくつもの問題を引き起こした。
汚染された地下水
過密空間で数万頭の家畜が飼育されることにより、尋常でなく濃密な糞尿が地下水を汚染。
NRDC(天然資源保護協議会)によると、高い硝酸濃度の地下水は、人体へ40種類以上の病気を運ぶという。
- 自然流産
- 青色児症候群 - 乳幼児の死亡
- 腎機能障害
- 死亡
一頭の乳牛から発生するのは、24人分の排泄物。
一つのファクトリーファームで数万頭の乳牛が毎日糞尿を排泄したら? 環境には深刻なダメージが蓄積する。
家族経営の広い牧場で放牧されていた時には、生態系にこうした悪影響を及ぼすこともなかった。
*カリフォルニア州セントラルバレーの巨大酪農CAFOから、大量の糞便が地下水に漏泄。90万頭の乳牛から人間 2,100万人分相当の糞尿が発生していた。
環境汚染の法的問題は「政治的」解決
もともと畜産業界では、「家畜の排泄物で発生した汚染による損害賠償責任」が 法で定められていた。
ところがアグリビジネス企業の要請を受け、米環境保護庁は同法を廃止。
今では地下水モニター義務すら廃止されている。
回転ドア人事 - アグリビジネスマネーで政官も味方
アグリビジネス企業によるロビー活動の成果として、家畜は動物愛護法の適用外。
選挙資金を引き受けることで、少なくない政治家たちが納得してくれる。
巨大産業であるアグリビジネス企業界の利益を背負うロビイストたちは、仲間の政治家を探すのに困らない。
アグリビジネス企業幹部が政府内に抜擢されたり、逆に政治家がアグリビジネス企業に天下りすることも。いわゆる回転ドア*だ。
*回転ドア - 規制される側の人間を、規制する側の政府要職につける人事。官民癒着の温床と問題視されている。
米農務省にはアグリビジネス企業OBたちが
ビジネスに長けたアグリビジネス企業たちは、かつてリンカーン大統領が「国民の省」として設立した農務省にまで 強い影響力を行使。
農務省からの作物補助金は、72%が上位10%のアグリビジネス企業に向かった。
食肉業界の闇 - 家畜への虐待問題
妊娠クレートに監禁された豚 出典
監禁され、一生涯立ったまま身動きの取れない家畜たちは、足を傷めやすい傾向がある。
ストレスで頭を壁に打ち付けるなど、発狂して死亡することも。
ホックバーン問題
過密空間の養鶏場では、薬漬けで無理に成長した肉に骨格が追いつかないため歩けないニワトリたちも。
排泄物だらけの床でホックバーン*を発症。心臓や肺も成長スピードに追いつかず、病気や死亡が日常。
米農務省の推定では、年間10%の家畜がストレス、ケガ、病気で死亡している。
*ホックバーン - 床の排泄物によるアンモニアがしみることで発生する火傷。発症率は最大8割とも。黒いカサブタは切り落とし 加工されてしまえば、消費者には判別できない。
マネー至上主義
家族農園のように、一羽ずつ向き合ってケアするよりは、在庫ロスとして処分してしまった方がコストを抑えられるという。
検索してみると、目もあてられない映像がいくつも。本稿では掲載を自粛する。
ここには私たちの食物となってくれる生命体たちへの畏敬など皆無なのだ。
食肉業界の闇 - 大量のワクチンと抗生物質
こうした家畜たちの死亡率を抑制するために 経営者たちが手を出しているのが、抗生物質やワクチン接種。
病気のままであろうとも、出荷まで大きく太らせて生き永らえさせる。これは「経済効率」という言葉で説明されてきた。
畜産業界 = 薬物依存マーケット?
抗生物質の8割は飼料に混ぜられる。
ビッグファーマの抗生物質を消費するのは、人間よりも家畜たちの方が多い。
アグリビジネスにおいて、もはや製薬医療業界は欠かせないものになっていた。
鶏を2kgに育てる日数
1980年代 | 70日 |
---|---|
21世紀 | 29日 |
成長ホルモン投与によって 生産者側のコストは大幅に削減されたが、健康面はどうだろうか。
- ストレスまみれ
- ワクチンまみれ
- 糞尿まみれ
- 運動不足
- 遺伝子組換え かつ 抗生物質を混ぜられた餌
- ブクブクの肥満
日本のファーストフードチェーンやスーパーに届くのは、こうした食肉。
太陽の下、自然の草を食べて育った家畜は 今や希少な高級食材だ。
そもそもGMO穀物飼料を食べていない家畜など、地球上にほとんど存在していない。
鳥インフルエンザ2005と 製薬会社
ブラジルの鶏工場 出典
私たち人間に置き換えて考えてほしい。過密空間で薬漬けなら大量の病気が発生しないだろうか?
鳥たちの病は、当然いずれ工場の外にも伝染するだろう。
ブッシュ政権の疑惑
2005年11月、ジョージ・ブッシュ米大統領の記者会見で「パンデミック・インフルエンザ戦略計画」が発表。
会見には米政権の閣僚たちも同席し、スイスからはWHO事務局長までも出席するものものしさ。
内容は「鳥インフルエンザ」なる潜在的な仮想敵に対する宣戦布告。ブッシュは71億ドルもの緊急支援法案の可決を議会に迫った。
製薬会社最大株主である 米国務長官が タミフル発注
2001年にブッシュ政権で国防長官に就任するまで、製薬会社ギリアド・サイエンス社の会長であったドナルド・ラムズフェルド。
ギリアド社が予め開発していたタミフル(インフルエンザ特効薬)は、この鳥インフルエンザ騒動で 世界中が買い争うことに。
米政府も膨大な量の備蓄用タミフルを発注。ギリアド社の株は高騰。
ただし、この鳥インフルエンザ騒動では、ギリアド社の大株主であるラムズフェルド長官が億万長者になっただけではなかった。
ファクトリーファームを拡大する上で大いに貢献したのが、2005年 鳥インフルエンザ騒動だったのだ。
鳥インフルエンザ - アグリビジネス企業が拡大
人類は恐怖を感じる時にのみ、大きく進化するジャック・アタリ
奇妙なことに、大規模で過密、つまり非衛生的な環境にあるはずのファクトリーファームは、2005年鳥インフルエンザ発生の調査対象にはならなかった。
代わりに目をつけられたのは、アジアの小規模な養鶏農家たち。
密閉空間 vs 開放空間 - 伝染病はどちらから蔓延?
アグリビジネス企業による「放飼いでなく、密閉した空間だからより安全だ」との宣伝は、大手マスコミを通じて発信することで効果を発揮した。
密閉したファクトリーファームの空間
- 換気が不十分で生暖かい
- 床一面にアンモニアが漂う
- 薬漬けの家畜たちが身動きできず蠢いている
通常外部の人間が目にすることはないが、一般消費者を騙すにはそれでも十分だった。
ファクトリーファームというブラックボックス
ただし、2006年のGRAINによるレポートでは、鳥インフルエンザが発生したあらゆる地点の隣に 巨大ファクトリーファームが存在していたことが指摘されている。
ファクトリーファームで大量使用される抗炎症剤やワクチンこそ、ブロイラーたちの環境が不衛生・不健康な証ではないのだろうか。
このブロイラーたちと、放飼いの鶏たちと、一体どちらが未知のウイルスに感染しやすいだろうか。
自然界(南北)とは異なる感染ルート(東西)
- 自然界の渡り鳥は、南北ルートで移動。
- 鳥インフルエンザの発生は東西ルート。
この矛盾点はろくに報道されず、鳥がただ世界を自由に飛び回っているというイメージだけで恐怖は煽られた。
アジアの小規模養鶏農家に大打撃
アジア諸国の政府がWHOなどを通じた国際圧力に屈することで、アジアの小規模農家は放飼いしていた鶏を カゴや小屋で飼う必要に迫られる。
すると上昇した養鶏コストが小規模農家の経営を圧迫。
グローバルなアグリビジネス養鶏企業が、巨大なアジアのチキン市場を呑み込んだ。
アグリビジネス大企業が市場独占
鳥インフルエンザという恐怖で、製薬会社が儲けただけでなく、アグリビジネス企業もアジアのタンパク質市場を独占。
米国のタイソンフーズやタイのCP(チャロン・ポカパン)グループを筆頭に、アグリビジネス畜産企業は鳥インフルエンザ騒動で業績を大いに伸ばした*。
*タイソンフーズは鳥インフルエンザ最盛期であった2005年9月までの四半期で利益が49%上昇。
*2009年に発生した豚インフルエンザ騒動も、ほぼほぼ同様のストーリーと結果なので、本稿では省く。
食肉業界の垂直統合 - 4大食肉メジャー
緑の革命を利用してほぼ完成していた米国内のアグリビジネス垂直統合は、食肉業界でもその支配計画を推進。
グローバリズムの常として、畜産業界も合従連衡を激しく繰り返し、どんどん少数寡占の度合いを強めている。
もはや人類に食料を与えるも、飢えさせるも、食料メジャーを統べる一握りのエリートたち次第。
彼らの工場に何かしらの事件が発生すれば、たちまち人類全体が飢饉に見舞われかねない。
全米の4大食肉メジャー
例えば 全米における牛肉の精肉業界だ。1990年代末時点で上位四社が84%を支配。
穀物メジャーでもあるカーギル社は もう笑いが止まらないだろう。
- タイソン社
- カーギル社
- スウィフト社
- ナショナル・ビーフ・パッキング社
世界の4大食肉メジャー
また、日本を含めた世界市場レベルでも、わずか数社の支配下に統合されている。
- カーギル社
- タイソン・フーズ社
- スミスフィールド社
- JBS SA社
タイソン・フーズ社
- 創業:1935年 アーカンソー州
- IBP社を買収したことで、世界第2位の精肉メジャーに。
- 代替肉Beyond Meet社の株式も5%保有。
カーギル社
- 創業:1865年 ミネソタ州
- 世界最大の穀物メジャーであり、食肉以外でも水産、石油、工業にも進出するグローバルな超巨大コングロマリット。
- 創業家であるカーギル家、マクミラン家で全株式を所有する同族経営の秘密主義。
- 非上場企業としては世界最大の売上。
- 20世紀に成長した資産は6000倍。
スミスフィールド社
- 創業:1936年 バージニア州
- 大型買収を繰り返し、全米最大の豚肉業者に成長。
- 2013年には中国のWH(万州国際)グループに買収された。
JBS SA社
- 創業:1953年 ブラジル
- 現在世界最大の精肉アグリビジネス企業。
- 米国のスウィト社を2007年に買収したことが大きな勢力拡大要因となった。
アグリスーティカル - 食糧と医療の融合へ
食肉業界が垂直統合を進める過程で、すでにアグリビジネスとビッグファーマは密接な関係にあった。
先述した通り、過密なファクトリーファームで飼育された家畜たちには、抗生物質やワクチンが日常的に投与されていたからだ。
遺伝子革命を統合
アグリビジネス革命生みの親であるR.ゴールドバーグがこの段階以前ですでに描いていたのは、これらのビジネスに遺伝子革命を統合すること。
アグリビジネスに生命科学(バイオテクノロジー)を持ち込むことで、食糧、医療、製薬、化学、繊維、エネルギーの各産業を一つに束ね、支配できる。
R.ゴールドバーグ自身はそれを「アグリスーティカル」と呼んだ。
20世紀初頭にロックフェラー財団が投資を始めた遺伝子工学。当時はまだ誰もその名を聞いたことがなかった。
そして当時に描かれていた「食糧 = 兵器」という概念が、いよいよアグリスーティカルという その本当の姿を見せ始めてきたのである。
2020 パンデミック
やがて迎えた2020年、世界的なコロナパンデミックが発生。
ほとんどの日本人が アグリスーティカルなどという言葉を聞いたこともなければ、それが意味するものが 自分たちと一体何の関係があるのか、まだ知る由さえなかった。
この記事のまとめ
鳥インフルエンザ騒動の真実『食肉業界の垂直統合』 - 食糧ショックドクトリン - 畜産編- 畜産業界は、穀物メジャー、製薬メジャーの上得意。
- 伝統的な飼育方式でない、超過密工場型飼育方式CAFOによって家畜の伝染病が発生しやすく、環境破壊が進行している。
- 鳥・豚インフルエンザで、畜産業界の寡占化が促進。
- 食料メジャーが次に描いた構想 アグリスーティカルは、遺伝子革命で食糧・医療・製薬・化学などの統合。