大切な人の死とは? ー 「伝説のハカ」が問いかけるもの
2019年ラグビーW杯では、ニュージーランド・オールブラックスによるウォークライ(闘いの舞)「HAKA(ハカ)」がお茶の間の人気を集めた。
この「ハカ」、実はラグビーの試合前だけに行われるのでない。
ニュージーランドでは 卒業式、結婚式、お葬式など「人生の節目」の機会にも、時として行なわれることがある。
当人たちだけではなく、見る者の魂を震わせるハカの魅力。
ニュージーランドでは、なんとハカのコンテストまであるそうな。
ニュージーランドのスーパースターである、ジョナ・ロムー氏(元ラグビーNZ代表)の葬儀でも ハカが執り行われた。
※ ジョナ・ロムーについてはこちら
英雄の死
ジョナ・ロムーが 腎臓病のネフローゼ症候群 と診断されたのは、まだ19歳の頃。
約20年後の 2015年11月、40歳の若さでこの世を去った。
ラグビー史上に輝く活躍をした彼だが、40歳はまだ健康な現代人が死ぬ年齢ではなかった。
2019年ラグビーW杯日本大会 の親善大使も務めいていた。
まだまだラグビー界のために貢献して頂きたかったし、何より本人がそのつもりだっただろう…。
魅力あふれるプレーで、日本にもファンを獲得していたロムー。
遠く日本の地だけでなく、世界中のラグビーファンが 突然の死に驚き、涙を流した。
当然、家族や元チームメイト達は 言うに及ばない。
戦友の葬儀でハカを舞う男達
葬儀は 彼の愛したニュージーランドのラグビースタジアム「Eden Park」で、厳かに執り行われた。
別れを惜しむ元チームメイト達。
今や老いた元オールブラックスのOB達が、全力のハカでロムーを送る。
俺たちはあの世に行っても、一生チームメイトなんだ。
そんな魂が画面越しにも伝わる。
その魂は時空を越えて、私たちの胸をも震わせる。
そして、大切な何かを 私達へ問いかけては来ないだろうか?
大切なものは目に見えない
キツネは星の王子さまに言った。
心で見なくちゃ、ものごとはよく見えない。
大切なものは、目に見えないんだよ。
見えないものは信じない、という人もたまにいる。
だが往々にして、その目が喜びに満ちていることはない。
見えないが、確かにある「何か偉大な存在」への敬意。
ロムーを送るハカには それがある。
精神、魂、祖先、神、愛、友情、信頼、希望、勇気、未来、誇り、団結、血縁、運命。
世界は目に見えないものばかりだ。
でも、感じることはできる。
そして私達は、目に見えないものと繋がりたがる。
大切な何かと繋がっていたい。
自分より大きな「何か偉大な存在」と繋がり、一つになりたい。
それは、人類の根本的な願望 ではないだろうか。
その想いを 弱者のものというのなら、人間とはそもそも弱いものなのだ。
神に祈るマザーテレサ、電車内でスマートホンを眺める若者。
きっと、みんな何かと繋がっていたいのだ。
万有引力とはひき合う孤独の力である
谷川俊太郎氏の詩「20億光年の孤独」にはこうある。
人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
(中略)
万有引力とは
ひき合う孤独の力である
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う・・・
宇宙誕生から145億年とも言われる。
この広大な宇宙で、人間とは一体何なのだろうか?
隣人との出逢いこそ奇跡
僕らの出逢いがもし偶然ならば?
運命ならば?
君に巡り会えた
それって『奇跡』
私たちが、この地球で同じ時代に生きている。
GReeeeNの歌詞通り、これって「奇跡」だろう。
筆者の歳くらいになれば多くの場合、大切な誰かを亡くした経験があるものだ。
あの時、もっと愛を 素直に伝えていたら…。
そんな後悔が、人生にはつきものである。
大切な誰かの死に直面した時、その人ともっと繋がっていたい。
繋がりを確かめたい、いや、噛み締めたいと思うものだ。
宇宙はそれだけ広大であり、時の流れは永遠とも思える。
人が一人で(独りで)いるには、あまりにも広すぎるのだ。
人が一人でいるのはよくない
聖書の創世記にはこうある。
人がひとりでいるのは良くない。
彼のために、ふさわしい助け手を造ろう。
人類誕生の瞬間から、人は誰かを必要としていた。
男がいて、女がいる。
だから私たち人類は、何十万年もの時間を一本の「生命の糸」で繋がっている。
それって「美しい奇跡」ではないだろうか?
伝説のハカが教えてくれたこと
ハカは魂で祖先達と繋がり、仲間達と繋がるものだという。
2015年Eden Parkで行われたハカ。
それはラグビー界の英雄ロムーをキッカケとして、彼の友人や家族たちと、私や今この記事をご覧になられている読者の皆様と、
もっと言うならば「宇宙の向こう側の存在」なり「ご先祖様たち」を精神的に繋げてくれたように思う。
時空を超えて…。
今回のハカで魂を揺さぶられた筆者は、
「自分はこれから生き方を改めねばならない」。
そんな気にさせられた。
そしてマザーテレサが、ノーベル平和賞を受賞した際の言葉を思い出す。
「世界平和のために何をしたらいいですか?」
「家に帰って、家族を大切にしてあげてください。」
今から帰って、目の前の家族を大切にしよう。
息子と散歩に出かけて、そして抱きしめよう。
それが今から私がする最も大切なことだと思う。
ジョナ・ロムーと彼の仲間たちから学んだことだ。