死の商人ザハロフ - 両建て作戦で大儲けしたグローバリスト
更新日:第一次世界大戦における カリスマ的死の商人 バジル・ザハロフ。連合国とドイツの双方に武器を大量販売し、戦火拡大と長期化に成功。
映画007に登場する悪役ブロフェルドのモデルにもなったザハロフ。その破天荒な人生は、戦争のリアルな姿を知る上で 非常に興味深い。
ザハロフ:破天荒なプロフィール
「神秘の男」バジル・ザハロフ wikipediaより
本名 | ザカリアス・バジレイオス・ザハリアス |
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生死 | 1849〜1936年 |
国籍 | オスマン帝国、ギリシャ、フランス |
職業 | 武器商人、慈善家 |
6歳で売春宿の客引きを始めたというザハロフ。青年期までは放火、強盗、殺人、横領、詐欺、売春宿経営など犯罪のグランドスラムを達成。
絵に描いたような不良、いや極悪人だ。強烈なキャラクターゆえ、多くの映画・小説・漫画に登場。
黒幕のボスが 膝上に白いペルシャ猫を抱いて登場するキャラクターは、007の悪役ブロフェルドが元祖。そのモデルがザハロフとされる。
謎の男
やましい過去の多いザハロフ自身が 経歴を隠したこともあり、通称「ヨーロッパ謎の男」。
不明な点が多く、出生年は1849、50、51年のいつかも正確にはわからない。
生粋のグローバリスト
出生地もオデッサ、コンスタンチノープルなど諸説ある。出自の噂もロシア人、ロシア系ギリシャ人、ユダヤ系など様々。教育はパリ、ロンドンなどで受けた。
こうした複雑な出自の影響で、ザハロフはコスモポリタン(デラシネ:根無し草)であった。つまり、今で言うグローバリスト。
アイデンティティが定まらない一方、金のためなら いずれの国家権力とでも交渉できる才覚を得たとも言えるだろう。
欧州指導者たちとの太いパイプ
- イギリス
- ロイド・ジョージ首相 - フランス
- クレマンソー首相 - ギリシャ
- エレフテリオス・ヴェニゼロフ首相 - オスマン帝国
- アブデュル・ハミド2世(スルタン)
日本との関わり
ザハロフは日露戦争でも両国に武器を販売。
- 日本はザハロフのヴィッカース社へ、軍艦三笠の製造を発注。日本海海戦の旗艦として、ロシアバルチック艦隊撃破に貢献。
- ヴィッカース社は、第2次世界大戦で活躍した軍艦金剛も受注。
ザハロフ:武器商人になる
当初、売春宿の経営者であったザハロフ。貿易商である叔父の仕事を手伝っていたが、横領が発覚。ロンドンで裁判に問われ、逃げるように再びアテネへ。
武器商人へ転職
当時24歳のザハロフ。そこで後に第36代ギリシャ首相となる スコロウディスと運命的な出会いを果たす。
天才的な外交センスを評価されたザハロフは、スコロウディスの推薦で 武器商社ノルデンフェルト社に入社。
早速 商才を発揮し、当時はまだ珍しかった潜水艦をギリシャに販売。さらには、そのギリシャと対立していたオスマン帝国への販売にも成功。
詐欺行為でのし上がる
ザハロフが次に目をつけたのは、世界初の自動式機関銃であるマキシム機関銃。早速、発明者であるハイラム・マキシム本人に接近。
ところが、マキシム機関銃のデモンストレーションは 何度も失敗。ザハロフの工作だった。
マキシム機関銃が売れなくなり、弱ったところにつけ込む作戦だ。目論見通り、ノルデンフェルト社とマキシム社の合併に成功。
ザハロフは 世界中にマキシム機関銃を売りまくった。
M&Aでヴィッカース社へ
さらに同社は、巨大軍事企業ヴィッカース社*に買収された。ヴィッカース社の大株主はロスチャイルド銀行**。
倫理観を持たない天才ビジネスマンが、よりによってロスチャイルド銀行傘下の武器商社へ。ヨーロッパ人にとっては悪夢のような出会い。
* 現在はGE、BAE、ゼネラルダイナミクス等に買収合併済。
** N・M・ロスチャイルド&サンズ銀行が、ヴィッカース・サンズ&マキシム社設立時の新株を発行。
英国のロスチャイルド人脈
当時の英国王エドワード7世の側には、しっかりとロスチャイルド家が控えていた。
- エドワード7世
- ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世、ロシア皇帝ニコライの叔父 - ローズベリー首相
- ハンナ・デ・ロスチャイルドの夫 - ナサニエル・ロスチャイルド
- 初代ロスチャイルド男爵、エドワード7世の同級生・親友 - アーネスト・カッセル卿
- エドワード7世の財政顧問・親友、ヴィッカース・サンズ&マキシム社買収設立、ロスチャイルド傘下ゴールドシュミット商会最高幹部
ザハロフ:死のカルテル結成
いよいよザハロフによる魔の手が、ヨーロッパ各国の指導者たちに及び始めた。
妻を使い、英国首相をハニートラップ
英首相ロイドジョージ(wikipediaより)
まず ザハロフは自身の妻を使い、英国首相ロイド・ジョージをハニートラップの餌食に。
早速、ロスチャイルド銀行が英国公債を買う条件として、その50%を武器購入に充てることを約束させた。
ザハロフにかかれば、真面目な政治家や官僚たちを 次々ハニートラップにかけるのはお手のもの。ロイド・ジョージは生涯 ザハロフの言いなりであったという。
民主主義システムは、政治家を金と女で籠絡させれば支配できることが、この事例からよくわかる。
ヴィッカース社は欧州第4位の軍需企業に
その後もザハロフは 欧州各国へ武器販売の契約を いくつも取り付け、ヴィッカース社を世界第4位の巨大軍需企業に成長させた。
ただし欠陥品、粗悪品を売りつけることも 多かったと言う。
死のカルテル
ザハロフの暗躍で ヨーロッパの武器商社が、敵味方の区別なく資本関係を締結。国境を超えた情報、商品の融通をしあえる体制が整った。
- 英 - ヴィッカース&マキシム社
- 仏 - シュナイダー社
- 露 - プチコフ社
- 独 - クルップ社
- 墺 - スコダ社
ザハロフ工作① 第1次世界大戦を演出
ザハロフが武器商人たちと死のカルテルを結成させたことで、あとは大戦争を起こせば大儲けする準備が完了。
プロパガンダ開始
ヨーロッパ中で戦争を煽るプロパガンダが開始。戦争世論が形成され、各国の軍拡予算が議会を通過。
- ドイツ
→ ロシア、フランスの軍備拡張を誇大報道 - ロシア・フランス
→ ドイツの軍備拡張を誇大報道
開戦後もプロパガンダを加速
第一次世界大戦の開戦に成功してからも 手を緩めない。
フランスのパリ・ユニオン銀行の大株主であったザハロフ。エクセルシオール紙を買収。戦火をさらに煽るプロパガンダ。
各国に工作 → 戦火拡大
私が戦争を起こしたのは、両側に武器を売れるようにするためだったザハロフ
中立国ギリシャの国王はドイツ皇帝の義理の弟。それを退位工作で追い込み、ギリシャを戦争に誘導。
一方、トルコでは銀行を買収。ヴィッカース社の子会社も設立。ザハロフは隣国同士であるギリシャ、トルコ双方に武器を販売。
ザハロフ工作② 戦争の泥沼化・長期化
- ドイツ側の軍事会議にも潜入
- 連合国側の和平会議にも必ず出席し、豊富な情報で和平案を封殺
双方の戦略がザハロフには筒抜け。和平を握り潰すのは容易かった。またザハロフは、長期戦で厭戦気分が出るたびに新聞を利用し、主戦論で鼓舞。
善良な国民の愛国心ですら 戦争ビジネスに利用。
ザハロフ邸で国家元首が会談
各国の指導者たちは、死の商人ザハロフのコントロール下。ザハロフは戦争そのものを管理。
連合国側の三巨頭はザハロフ邸で会談したという。
- 米 - ウィルソン大統領
- 英 - ロイド・ジョージ首相
- 仏 - クレマンソー首相
ドイツ側にも影響力
ザハロフは武器商人仲間であるドイツ・クルップの親友であったのはもちろん、ナチスの資金調達も援助したという。
両建て作戦
まず左翼からはじめて、それでもし必要とあれば、右翼に働きかける。梯子を昇らせてくれた恩人を梯子から突き落とすことも、時には必要だということを忘れるな。バジル・ザハロフ
今でいうグローバリストであったザハロフ。特定の国家への愛情は持たない。冷酷に両者の戦争を煽り、管理した。
ザハロフ工作③ 絶対に攻撃されない兵器工場
林千勝氏によれば、ザハロフは「交戦国が互いに兵器を供給しあうメカニズム」を構築。
例えば、ドイツ、フランスの国境付近に位置するロレーヌ地方の大兵器工場。双方から争奪の的であったにも関わらず、一発たりとも被弾しなかった。
ドイツ占領中はドイツ軍に、フランス占領中はフランス軍に兵器を無事に供給したという。
独仏で共有?した製錬所
同じく独仏国境近くにあった製鉄所。戦争の行方を決定する重要な工場であったが、なぜかフランスは開戦とともに放棄。ドイツ軍に手渡した。
交戦中であるにも関わらず、ザハロフの仲介で独仏両国がこの製鉄所の譲渡協定を締結。同工場はドイツ・クルップ社の大砲となる鉄を製造。終戦まで無傷だった。
第一次世界大戦中のドイツ・フランス間には、この類のエピソードがいくつもあるという。
第1次世界大戦の結果
従来の戦争では戦火そのものよりも、病死するパターンが多かった。第1次世界大戦では、兵器の大幅な進化により、死者数1600万人に及ぶ悲惨な結末。
- 欧州各国の指導者たちは当初数ヶ月で終戦するつもりが、4年かかった。
- 各国の兵器会社はいずれも記録的な利益を獲得。莫大な配当を実施。
- ヴィッカース社は世界一の軍事企業に成長。
各国がザハロフに授与した勲章
救世主勲章(ギリシャ)
「欧州大戦の父」ザハロフには31ヵ国から298の勲章*。英国ではバス勲章とともに「サー」の称号も授与。ザハロフ卿の誕生。
- フランス - レジオンドヌール勲章
- イギリス - 大英帝国勲章
- ギリシャ - 救世主勲章
ギリシャの勲章名には、読者諸氏から多くのツッコミが入ることだろう。
未だに開戦の原因不明
第1次世界大戦の正確な原因は現在でも不明。一般的には、オーストリア皇太子暗殺が挙げられる。しかし当時において実際のところ、要人暗殺は珍しいことではなかった。
世界が戦争したのに、原因不明という謎。
一体何のため、誰のための戦争だったのか?
こういう時は、誰が一番得をしたのか? を考えてみるとよいかもしれない。
ザハロフの最後
- 米国ナイ委員会に召喚。潜水艦の取引で巨額の利益を得たことが判明。
- ロイド・ジョージの失脚で、ザハロフ自身も英国議会に召集。悪事が世に知られ、自身も引退を決意。
回想録を焼却処分
事業を精算後に取り組んだのが、回想録の執筆。回想録は一時 召使いから盗難に遭ったものの、警察の協力で取り戻した。
しかし、なぜか自身の手で焼却処分。回想録の内容は、世界権力者たちの暗部を暴露するものだったとか。
ザハロフ日記の争奪がテーマである漫画「ザハロフの晩餐」
寂しい晩年
ザハロフ自身は 隠棲先のモナコで死亡。晩年に再婚はしたものの、あまり友人と会うこともなく、一人で過ごすことが多かったという。
裁判で争った息子には、財産を一切相続させなかったという話もある。
グローバリズムという唯物思想、拝金主義者のむなしい最後。グローバリズムは世界を幸せにしない。金儲けできた死の商人ですら。
戦争の正体
私たちにできることは、戦争の本質を見抜き、広く知らせること。
戦争はビジネスであり、ザハロフのような死の商人たちが戦争を煽ってきたのだ。これを人々が理解するだけで大きな抑止力となる。
この記事のまとめ
死の商人ザハロフ - 両建て作戦で大儲けしたグローバリスト- 死の商人バジル・ザハロフの本質はグローバリスト
- ロスチャイルド銀行傘下のヴィッカース社を世界一の武器商社にした
- 各国指導者を金と女で手懐け、ヨーロッパを第一次世界大戦に誘導
- 4年間の戦争で死者1600万人の一方、武器業界に空前のバブルを演出
- 両建て作戦(日露、仏独、希土)が得意