伝説のマフィア「アル・カポネ」 - 善人を装ったイメージ戦略・マスコミ対策とは?
更新日:映画「アンタッチャブル」で日本でも知られる、世界一有名なマフィアがアルカポネ 。
敵を容赦無く始末する一方、地元シカゴでは尊敬され、全米の人気者。Times誌の表紙まで飾ったことも。しかし、そのイメージ戦略は非常にセコかった!
アルカポネの名言・行動から、現代の社会運動家にも通じる印象操作の手口に迫る。
アルカポネ とは
生死 | 1899〜1947年 (享年47) |
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誕生地 | NYブルックリン |
職業 | マフィア、 家具販売業者(自称) |
イタリア系アメリカ人家庭の 九人兄弟として誕生(4男)。179cmは当時では大柄。敵を容赦なく殺害する一方、シカゴ市民からは慈善家として知られ、振舞いも紳士的だった。
チンピラ時代には稼いだ小銭を母に渡していた。大人になっても、時間があれば 自宅に帰り、子供とキャッチボール。こうしたイタリア系らしい、家族思いの一面もあった。
禁酒法時代を背景に、密造酒の販売で莫大な資産を形成。26歳でシカゴ・暗黒界の顔に上り詰めた。
アルカポネ 伝説
ド派手な経歴
生涯で関与した殺人は450件。そのほとんどで自分の手は汚さず、配下の殺し屋700人が執行。賭博場300軒、売春宿3000軒の大半を傘下に治め、全盛期の年収は約240億円とも。
普段の生活は、事務所でもあるシカゴ中心部の一流ホテル。大胆不敵にも、ホテルの周辺には市役所や警察署があった。
誕生日にはお気に入りのジャズピアニスト、ファッツ・ウォーラーを拉致して演奏をさせた。豪快なエピソードには事欠かない。
「マネーロンダリング」の語源となった
アルカポネは コインランドリーをいくつも買収。そこに集まる無数の現金に、汚い手口で稼いだ金も紛れ込ませた。
コインランドリー経営者という「表」の顔で、「裏」の汚い仕事の儲けを堂々と洗浄。文字通り、金を洗濯(money laundering)。
聖バレンタインデー虐殺事件
ライバル組織の幹部7人が倉庫で密会しているところ、5人組の警察官が突入。壁に並ぶよう命じられた7人は、そのままあっけなく射殺。実はアルカポネの手下が警察に変装して、ライバル組織を一網打尽にしたのだった。偽物のパトカーまで用意していたという。
1929年2月14日に決行されたこの事件が「聖バレンタインデー虐殺事件」。これが世間に知られると、国民的人気者だったアルカポネの名声は失墜。メディアと警察も逮捕へ向けて舵を切った。
ギャングなのに慈善事業
1930年、貧困層のため シカゴ市内で1日3食の無料提供を開始。脱税容疑での逮捕を逃れるため、この窮地でイメージ戦略を展開。大恐慌の始まりでもあったこの年、生活に困る人々にはありがたい援助。
ただし実際には、パン屋、生肉業者など、アルカポネに逆らえない地元の業者を脅して協力させただけ。自分はほとんど出費していないというから、何ともセコい。
また貧困層の子女には、奨学金も気前よく援助。しかし この金も、元はと言えば 密造酒、麻薬、売春で儲けた汚い金。
刑務所内で豪華な生活
陪審員を買収していたが、裁判直前に情報が漏洩。陪審員は交替。結局、アルカポネは刑務所送り。
しかし刑務所でも、さっそく所長たちを買収。今までの豪華なホテル暮らしと、何ら変わらないセレブ生活。刑務所内から部下たちに、堂々と命令を出していた。
アルカポネのイメージ戦略
当時アルカポネ傘下にいた、後の社会運動家「ソウル・アリンスキー」。彼の手法は、やがて若き日のオバマ大統領、後の国務長官ヒラリークリントンに継承。
二人が選挙戦で滅法強かった秘訣は、アリンスキーの教えにある。そのベースは、アルカポネの狡猾なイメージ戦略であった。
アルカポネの汚い手口
- ウソはついたもん勝ちだ
- ウソには 半分真実を混ぜろ
- 汚い仕事は 部下にやらせろ
- 善人を徹底的に演じろ
- 市長、警察、メディアは買収しろ
ギャング業を ビジネスと捉えた
アルカポネは、古いギャングの体制に 変化をもたらした。今までも、ギャングがビジネスに手を出してはいた。アルカポネはギャング業を、それまでよりも明確に「ビジネス」と捉えた。
ただし、本質はやはり反社会的なギャングなので、手口はセコいし 汚い。これをオバマ大統領やヒラリーが学び、実践したかと思うと 引いてしまう。
① ウソはついたもん勝ちだ
脱税という国家を裏切る行為をしておきながら、「俺ほどアメリカのために生きてるヤツはいない! それなのに、俺だけムショ送りなんて仕打ちは酷い!」と逆切れ。
あまりの堂々たるウソっぷりには、尋問していた側が間違っているのかな? とさえ思わせる力がある。
これも前述したが、聖バレンタインデー虐殺事件は、手下たちに警察官の衣装を着させてライバルギャング団の幹部たちを信じ込ませた。従順になった隙をすかさず銃殺。これでシカゴ暗黒街での覇権を確立。
目的のために手段は選ばない。まさに「嘘ついたもん勝ち」を実践。
② ウソには 半分真実を混ぜろ。
今なら誰に聞いても、アルカポネの肩書はギャング。しかし彼自身は「家具販売業者」を名乗った。家具販売業の経営者でもあったのは事実。
しかしそれはあくまでも「表」の顔。本業である「裏」ビジネスが彼の莫大な収入と力の源泉であった。どちらが本当の顔かは明白。
他にもコインランドリー、花屋を経営するなどビジネスマンとしての成功も彼の一面ではある。しかし前述通り、コインランドリーはマネーロンダリングが本当の目的。
花屋で本当に販売もしていた。しかし同時に、花屋は麻薬販売の舞台であり、ギャングたちが情報交換する拠点でもあった。
良心的な人々は疑うことを避ける。健全な名前の看板があれば、それをそのまま信じる。そうした人々の良心に漬け込む、ウソのテクニック。騎士道の欠片もない汚い手口だ。
③ 汚い仕事は 手下にやらせろ
生涯で450件もの殺人に関与しておきながら、ついにアルカポネに手は及んでいない。刑務所送りの罪状も、殺人ではなく脱税容疑だ。一部をのぞいてその大半を手下にさせた。
聖バレンタインデー虐殺事件の時には、自分は遠く離れたフロリダで警察の尋問を受けていた。比較的小さな罪に問われることで、虐殺事件のアリバイを成立。実際の犯行は手下たち。自分はあくまでも紳士。何ともセコい。
④ 善人を徹底的に演じろ
前述通り、アルカポネは慈善事業も積極的に展開。貧困層への無料炊き出し、苦学生への奨学金援助。また、近所の人を招いてパスタを作ったり、クリスマスプレゼントを学校に送ったり、牛乳配達を提供したことも。
イタリア系の人懐こい性格も彼の一面であったろう。これらの事業も、本当に貧しい子供たちを思ってのところが、全く無いことはなかったのかもしれない。少なくとも今でさえそう思わせる。
善人アピールを忘れないちゃっかりしたところも、魅力的なイタリア男性を連想させるのは偏見ではないだろう。
気前よく、明るく、紳士的な振る舞いは、彼と出会った人々を魅了。実際、シカゴでは街の名士。人々も街のいいおじさんとして、とても慕っていた。
アルカポネは自己PRに長けており、当時のアメリカで善玉をイメージさせる白い帽子を常に被っていた。現存する肖像写真を見ると、ふくよかで優しそうな微笑を浮かべてもいる。
これらはいずれも絶大な効果を発揮。全米で人気を博して、現代のロビンフッドとさえ呼ばれた。ついにはTimes誌の表紙にまでアルカポネが登場。まさに稀代の人たらし。
だが、その裏側は冷酷そのもの。戦争下でもあるまいし、良識ある人間なら 450件も殺人に関与しない。若い娘さんに売春をさせて稼がせることに、良心が耐えられるはずがない。幸せな家庭を破壊するのを承知で、未来ある青年たちを麻薬漬けにしない。
自らの富と権力を巨大化させるために、悪魔のような所業を平然と繰り返す。それを隠すために「善人の仮面」を幾重にも重ねる。また善良な大衆はすっかり信じ込んでしまっていた。
⑤ 市長、警察、メディアは買収しろ
メディア対策は徹底。アルカポネ一味の悪行を すっぱ抜いたスクープ記事を書いた新聞記者は、すかさず手下達から暴行被害。その上でアルカポネは記者に暴行を謝罪し、金で解決をはかる。しかし賄賂を断固拒否するので、最終手段。新聞社ごと買収。これで記者を新聞社から追放。
警察にも賄賂攻撃。正義感ある警察官もいただろうが、個人個人を金で釣り 分断作戦。アルカポネの世話になる警察で、シカゴは溢れた。シカゴ市長選には息のかかった候補を擁立。莫大な金で勝利を買う。本当のシカゴ市長はアルカポネと言われた。
気が付けば、新聞記者の50%、シカゴ警察の60%がアルカポネの手下。真実を知らない市民。堂々と悪を働くアルカポネ一味。シカゴの道徳は失墜。今でもシカゴが凶悪犯罪都市であるのは、この暗黒時代と無縁とは言えないだろう。
結果:悪は滅びる
ついに善の仮面が剥がれ、世間にその素顔を晒された裁判判決。最終的に、脱出不可能として有名なアルカトラズ島刑務所へ。アルカポネはそこで梅毒が発症し、痴呆症も進行。刑務所仲間たちからバカにされることも。
刑務所内ストライキに参加拒否したため、妻子を殺すぞと脅された日には、布団でシクシク泣いていたという。もはや暗黒街のボスであった面影はない。
運よく出所後、短い晩年を家族と過ごし肺炎で死亡。享年47歳。かつて君臨したシカゴに戻ることはなかった。
アルカポネから学ぶ教訓
- 「善人のフリ」イメージ戦略は一定の効果があった
- でもバレたら世界中を敵にまわす
- マスコミ情報を鵜呑みにしない
①「善人のフリ」イメージ戦略は一定の効果があった
結果として、大衆はアルカポネを善人であると信じた。悪行が暴露された今でも、日本でファンがいるくらいの人気。ウソがバレない限り、善人のフリイメージ戦略はやったもん勝ちなのか。
執筆しておいて何だが、筆者としては納得しがたい結論ではある。
② でもバレたら 世界中を敵にまわす
聖人がたった一つでも罪を犯すと、世界で1番の悪党扱いになる。
悪人がたった一つでも善行をすると、あんないいヤツはいないとなる。
これは筆者の人生経験による法則。実はこれも納得し難いのだが、経験上 皆さんの周辺でもかなり当てはまっているはずだ。
アルカポネは派手に慈善事業を展開していた。自らPRしていた。ある日、善の仮面が剥がれ落ち、悪行が暴露した途端に全米から大顰蹙を買った。
もうどんなに善行をしても、誰も信じてくれない。とても恥ずかしかっただろう。
③ マスコミ情報を 鵜呑みにしない
買収されていたマスコミや市長、警察が一番悪い。とは言え、その情報を鵜呑みにしていたシカゴ市民に反省点はないのか?
良心的な人々ほど疑うことを知らず、騙されやすい傾向がある。しかし、良心的な人々こそ強くあらねば、悪が堂々と跋扈する社会になってしまう。
世界をよくしたい。良心的でありたい。そうした人々ほど、マスコミからの情報を鵜呑みにしてはいけない。操作された情報が氾濫している社会。それに気付いている人々も多いだろうが、悪はいつの時代でも狡猾。
自戒を込めて、今の情報化社会に警鐘を鳴らしておきたい。
この記事のまとめ
伝説のマフィア「アル・カポネ」 - 善人を装ったイメージ戦略・マスコミ対策とは?■ アルカポネのイメージ戦略
- ウソはついたもん勝ちだ
- ウソには 半分真実を混ぜろ
- 汚い仕事は 部下にやらせろ
- 善人を徹底的に演じろ
- 市長、警察、メディアは買収しろ
■ アルカポネの教訓
- 「善人のフリ」イメージ戦略は 一定の効果があった
- でもバレたら 世界中を敵にまわす
- マスコミ情報を 鵜呑みにしない