加熱殺菌の効果なし!ウェルシュ菌対策とカレーの保存方法【食中毒予防】
カレーライスに増殖するウェルシュ菌の対策と、カレーの保存方法についてご紹介します。食中毒の予防にお役立てください。
カレーライスと言えば、手軽でおいしい料理の定番。特に夏野菜カレーなどは、夏になると食べたくなる料理の一つでもあります。
ただし保存方法を一歩間違えると、危険な食中毒になりかねないのが、カレーの怖いところ…。
カレーに増殖しやすい「ウェルシュ菌」は、加熱に強くアルコール消毒なども効かないため、非常に厄介な菌なのです。
ウェルシュ菌とは
「ウェルシュ菌」とは、人体に入ると食中毒を起こす危険性のある菌です。
ウェルシュ菌は、食べ物を通して人の体内に入ると、小腸内で増殖。エンテロトキシンという毒素を放出し、人を発熱・腹痛・嘔吐・下痢などで苦しめます。
一時期マスコミを騒がせたO-157に比べると、毒性の強さはさほどではありません。しかし、子供や老人・免疫の弱い人の場合は、致命的な症状を引き起こすこともあるため、油断は禁物です。
そして このウェルシュ菌には、アルコール消毒や加熱殺菌が効きません!・・・これが、ウェルシュ菌の最も厄介な点です。
ウェルシュ菌はカレーが大好き?
さて、そんな厄介な食中毒菌であるウェルシュ菌ですが、なんと「カレー鍋に非常に増殖しやすい」という特性を持っています。
ウェルシュ菌がカレー粉の成分を好んでいるわけではなく、
肉類、魚介類、野菜 を使用した煮物。
大量に加熱調理される。
室温で数時間放置される。
という、これらカレー料理の特徴が、ウェルシュ菌増殖の温床になっています。
そのため、上記の特徴を満たす他の料理(ex シチュー、スープなど)においても、同様にウェルシュ菌が増殖する可能性が十分にあります。
ウェルシュ菌増殖のメカニズム
では、どのようにしてカレー鍋の中でウェルシュ菌は増殖するのでしょうか?
ウェルシュ菌は何処からやってくるの?
実は、肉・魚介類・野菜は、もともとウェルシュ菌が付着している状態でキッチンにやってきます。
というのも、ウェルシュ菌は自然界の至る所に存在します。土・川・動物や人の体内など、ウェルシュ菌のいない場所を探す方が難しいぐらいです。
では何故、普通に生野菜を食べても食中毒にならないのかというと、食中毒の症状は菌を1〜2個摂取した程度では発症しないためです。
食中毒に限らず、例えばインフルエンザなどにおいても、ある程度のまとまった個数を同時に摂取しないと、菌による症状は発症しません。これを「発症菌数」と呼びます。
食中毒の原因とされる主な菌の発症菌数
- O-157:100個程度
- サルモネラ菌:1万〜10万個程度
- ウェルシュ菌:1000万個程度
カレー鍋の中のウェルシュ菌
具材や人の手指を通してカレー鍋に入り込んだウェルシュ菌は、初めは他の食中毒菌たちと仲良く鍋の中にいます。しかし鍋が加熱されるにつれ、熱に弱い他の食中毒菌はドンドンと死んで行き、数分もすればカレー鍋の食中毒菌はウェルシュ菌だらけになります。
さて、いくら熱に強いウェルシュ菌といえども、グツグツ煮えたぎる鍋の中は非常に住み辛い環境です。そのため、自身を硬い殻で覆った「芽胞(がほう)」と呼ばれる状態に変身します。
ウェルシュ菌の芽胞とは
芽胞とは、言わば自身の周囲に強力なバリアを張っているようなもの。
沸騰したお湯で4時間以上煮こもうが、冷凍庫で氷漬けにしようが、アルコール消毒を吹きかけても、この芽胞のバリアには通用しません。
そして、カレー鍋の調理が終わると、人が食事を開始します。まだここまでの段階では、鍋の中のウェルシュ菌の数は多くありません。
しかし、問題はこの後。
食べきれず鍋に入ったままのカレーは、そのままにしておくと冷えて温度が下がっていきます。そしてカレーの温度が下がると、芽胞のバリアを張っていたウェルシュ菌は、殻から出てきて再び「菌」としての活動を再開します。
ウェルシュ菌は酸素が嫌い
ウェルシュ菌は酸素を嫌う「嫌気性」と呼ばれる菌のグループ。そのため、空気が入ってこないカレー鍋の中央〜底部分で、適度に生暖かい環境の元、猛烈な勢いで増殖を始めるようになります。
- ウェルシュ菌が最も増殖する温度は、43〜47℃と言われています。
約10分で分裂する(=2倍に増える)ウェルシュ菌は、10分後には2倍、20分後には4倍、30分後には8倍、...1時間後には64倍、2時間後には4096倍、...なんと8時間後には281兆倍にも増殖!
翌朝、一晩たって熟成されたカレーを食べると、こんなに大量のウェルシュ菌を摂取することになってしまうわけです。これでは食中毒になって当然ですね。
・・・これが、ウェルシュ菌が食中毒を引き起こすメカニズムと言うわけです。
カレーの正しい保存方法
せっかく作ったカレーが残ってしまった場合、捨てるのは勿体ないですよね。
かと言って、ウェルシュ菌だらけのカレーも食べたくありません^^;
適切な保存方法を行うことで、ウェルシュ菌の増殖を大幅に減らすことができます。
常温保存しない(加熱 or 冷蔵)
カレーが冷えてウェルシュ菌が住み良い温度になると、ウェルシュ菌は芽胞の殻から出てきて活動(増殖)を開始します。
その為、カレーが常に60℃以上になるよう加熱し続けることで、ウェルシュ菌を芽胞の中に閉じ込め、増殖を防ぐことができます。
「一晩もカレーを火にかけ続けられないよ」という場合には、冷蔵庫で保存する方法も有効です。
冷蔵庫内のように寒すぎる環境においても、ウェルシュ菌は芽胞の中に閉じこもり、活動を停止します。
小分けにする
ウェルシュ菌は空気を嫌う性質があるため、小分けにして空気に触れる表面積を増やすことも大切です。また、小分けにすると熱が伝わりやすくなるため、冷蔵庫の保管時には特に有効です。
食べる直前で再度加熱する
ウェルシュ菌自体には加熱の効果はありませんが、ウェルシュ菌が作り出した毒素は、過熱することで無害化されます。冷蔵庫に入れたカレーを食べる前に、十分に火を通すようにしましょう。
ウェルシュ菌対策で食中毒予防 - まとめ
加熱殺菌もアルコール消毒も効かない菌と言われると、それだけで「怖い」イメージになってしまうウェルシュ菌ですが、実際は、空気に弱かったりと弱点もあるようです。
カレーライスをおいしく食べるためにも、保存方法には特に気を付けていきたいですね。
そして、食べる直前に 必ず火を通すことをお忘れなく^^