【2020年 教育改革】アクティブラーニングの狙いは「ゆとり教育の復活」?
2020年に始まる大学入試改革に先駆けた「アクティブラーニング導入の是非」について、前回の記事では考察しました。
アクティブラーニング導入の背景は、「先行きが不透明な時代へ対応できる人材を育成する為」だと言われています。
しかし、右に倣えという同調圧力の中で 上辺だけの教育改革になってしまっている現状…。
今回は もう少し深堀をして、「アクティブラーニングの本当の狙いとは何か」を、中教審がまとめた「論点整理」から考察します。
なお結論から先に言えば、「アクティブラーニング=ゆとり教育の復活」です。
アクティブ・ラーニング導入のきっかけ
アクティブラーニングとは、「知識・技能」を教授された生徒が ディスカッションや調査、プレゼンテーションなどの主体的・能動的な学習行動によって、「知識・技能」をより深めていく教育手法のこと。
現在、大学をはじめとする教育現場において、アクティブラーニングは積極的に導入され始めています。
アクティブ・ラーニングのメリット
- 知識の定着に優れている
- 主体的、協働的な学びが習得できる
- 課題の発見力と解決力が向上する
アクティブ・ラーニングのデメリット
- 学習プロセスに時間がかかる
- 講師の資質に左右される
- モチベーション維持が難しい
当初 アクティブラーニングの導入は、上記のデメリットを考慮しても、メリットを最大限に活かそうとするものでした。
大学において
- 出席ばかりを気にし、肝心の授業では主体性に欠ける学生
- 何年も同じ講義ノートを使用して、マンネリ化した講義を行う教員
の姿が、徐々に問題視。
時代の変わり目にあって日本の景気が停滞し、「世界大学ランキング」において 国内大学の評価が低迷するなど、高等教育機関としての「大学教育の質」が厳しく問われるようになりました。
こうした時代の流れが、アクティブラーニング導入のきっかけとなったのです。アクティブラーニング導入の背景
アクティブラーニングが学校教育に浸透してきた背景には、文部科学大臣の諮問機関である「中央教育審議会(以下、中教審)」が大きく関わっています。
彼らが どういった議論をしてきたのか、順を追って解説していきます。
2012年8月、中教審は「大学教育の質的転換答申」を提出。
大学教員の一方的な講義だけでなく、学生の授業への積極的な参加を促し、思考や議論を活発化し、教員と学生もしくは学生同士の対話と協働によって 価値ある有意義な学びをつくり出すことが大切である。
としました。
さらに2014年12月には、「高大接続・入試改革答申」を提出。大学入試改革と高大接続の観点から、高校の授業改革を提案。
その中で、「大学入試センター試験」の廃止に伴って2020年から実施される「大学入学共通テスト」や、面接・小論文テストを重視する入試方法が提言されました。
これらの改革と並行して、高校では「講義形式中心の授業方法」を改め「アクティブラーニング」を導入。生徒の主体的で積極的な学びを充実する事が、求められるようになりました。
この流れは、さらに、小・中学校の教育内容にも入り込んでいきます。
中教審は、2015年8月に「論点整理」をまとめ、小・中学校教育では「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び」という言葉でアクティブラーニングを表現。
このようにしてアクティブラーニングは、小学校から高校までの教育の柱となる 次期「学習指導要領」の基調を決めるキーワードとなっていったのです。
教育改革の方針を決定する「中教審」とは何か
先ほど文部科学大臣の諮問機関として「中教審」があることをお伝えしました。
教育改革には必ずと言ってよい程、この「中教審」が関わっています。その組織の概要を簡単にご説明します。
中教審は 2018年度で第9期目を迎え、以下4つの分科会から構成されている組織です。
「中教審」4つの分科会
- 教育制度分科会
- 生涯学習分科会
- 初等中等教育分科会
- 大学分科会
※ それぞれの分科会の中では、部会やワーキンググループが設置されることがあります。
例えば、上述した「小・中学校にもアクティブラーニングが導入」という内容は、「初等中等教育分科会」で討議されたものです。
アクティブラーニング導入の真の狙いとは
アクティブラーニングを導入する真の目的が「ゆとり教育の復活」である事について、みていきます。
「論点整理」が示す次世代の教育のあり方
アクティブラーニング導入の目的について、本当の狙いはどこにあるのか。これを中教審がまとめた「論点整理」の内容から明らかにしていきましょう。
「論点整理」には、「社会が今後どのようになっていき、教育によって育むべき力は何なのか」が記載されています。
例えばP2(論点整理2ページ目)の内容は以下の通り。
予測できない未来に対応するためには、社会の変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、一人一人が自らの可能性を最大限に発揮し、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要である。
そのためには、教育を通じて、解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解ける力を育むだけでは不十分である。これからの子供たちには、社会の加速度的な変化の中でも、社会的・職業的に自立した人間として、伝統や文化に立脚し、高い志と意欲を持って、蓄積された知識を礎としながら、膨大な情報から何が重要かを主体的に判断し、自ら問いを立ててその解決を目指し、他者と協働しながら新たな価値を生み出していくことが求められる。
上記を読むと、これからの時代は「予測できない未来」に備え、受け身ではなく「自ら問いを立てて」、「他者と協働しながら新たな価値を生み出していく」ことが期待されていると分かります。
「論点整理」が考える教育の現状
次に「論点整理」が考える教育の現状についてみていきます。
P6の内容は以下の通り。
我が国の子供たちについては、判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べたり、実験結果を分析して解釈・考察し説明したりすることなどについて課題が指摘されることや、自己肯定感や主体的に学習に取り組む態度、社会参画の意識等が国際的に見て相対的に低いことなど、子供が自らの力を育み、自ら能力を引き出し、主体的に判断し行動するまでには必ずしも十分に達しているとは言えない状況にある。
それは、社会において自立的に生きるために必要な力として掲げられた「生きる力」を育むという理念について、各学校の教育課程への、さらには、各教科等の授業への浸透や具体化が、必ずしも十分でなかったところに原因の一つがあると考えられる。
つまり、
- 自己肯定感が、国際的に見て相対的に低い事
- 自ら能力を引き出し、主体的に判断できない事
について、
「各学校の教育課程」や「各教科授業への浸透や具体化」の不十分さが原因だとしているのです。
アクティブラーニングは「ゆとり教育」の再現
筆者がこの「論点整理」を見る限りでは、課題解決の方向性が「ゆとり教育」の再現に思えてなりません。
かつて「ゆとり教育」の目玉とされた「総合的な学習の時間(主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育てる学び)」を目指すべきだ、としているように見受けられるのです。
ところで、自己肯定感や主体性とは、授業で教えられるものでしょうか?
公教育の現場が、理想的な「子供が勝手に育ってくれる場所」に なり得るのでしょうか?
ここで挙げられている子供達の課題は、日本社会の大人達が抱えている課題ではないでしょうか? 本当に子供達の課題なのでしょうか?
「現在の子供達の課題が『総合的な学習の時間』によって解決される」と中教審が考えているならば、それは過去の失敗をくり返すことになり兼ねません。
こうした「教育改革」一連の流れから推測するに、アクティブラーニング導入の狙いは「ゆとり教育の復活」であると、筆者はみているのです。
この記事のまとめ
【2020年 教育改革】アクティブラーニングの狙いは「ゆとり教育の復活」?- アクティブラーニング導入のきっかけと背景
- 教育改革の方針を決める「中教審」について
- アクティブラーニング導入の狙いは「ゆとり教育の復活」
について考察しました。
明治以降、国家の人材育成に日本の教育制度が大きな影響を与えてきたことは、紛れもない事実です。しかし教育制度は、社会の諸問題を解決できる "万能薬" ではありません。
社会の課題は大人が責任を持つことが当然の義務であり、未来を担う子供達に責任を転ずるような論調は、非道徳的。
何のための教育改革であり、アクティブラーニング導入であるのかは、それぞれの教育現場で大いに議論があって良いのではないかと思っています。
教育に関して、一人でも多くの方が真剣に考えるキッカケになれば、幸いです。