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毎日お酒を飲むと強くなる?鍛えられる? 『アルコール耐性』の真実

更新日:毎日お酒を飲むと強くなる?鍛えられる? 『アルコール耐性』の真実

「毎日の飲酒で お酒に強くなる」という有名な俗説があります。

しかし その一方で、「お酒に強い弱いは生まれつき。飲酒しても鍛えられない」という 真逆の話も聞いたことがあったり…。


果たして「酔いにくさ(アルコール耐性)」は鍛えられるのでしょうか? また「お酒に強くなる方法」というのは存在するのでしょうか?


本稿では、アルコール耐性に関する疑問や、アルコール依存症に陥るメカニズムなどを解説します。
提供:(公社)アルコール健康医学協会

目次
毎日お酒を飲むと強くなる?鍛えられる? 『アルコール耐性』の真実

なぜ酔うのか? アルコール分解の過程(メカニズム)

まずは「体内に吸収されたお酒が どのようにして酔いを引き起こすのか?」について みていきましょう。


お酒の中の "酔い成分" といえば「アルコール」。そして、アルコールは主に肝臓で分解(無害化)されるというのは、よく知られている話。

そのため、お酒に強い人/弱い人の違いは「肝臓がアルコールを分解する速さの違い」ということになります。


人体内でのアルコール分解の程


上図をみてください。体内に入ったアルコールは、主に肝臓の「ADH(アルコール脱水素酵素)」により「アセトアルデヒド」と呼ばれる物質に変化します。

アルコール自体はさほど毒性は強くないのですが、実はこのアセトアルデヒドがクセ者。アセトアルデヒドには強い毒性があり、頭痛や吐き気といった "悪酔い" の症状を引き起こす原因だと言われています。


このアセトアルデヒドは「ALDH1, ALDH2(アルデヒド脱水素酵素1型, 2型)」によって、人体に無害な「酢酸」へと変化。

そして 酢酸は全身を周りながら、最終的には水と炭酸ガス(二酸化炭素)になり、体外へと排出されます。

※ 摂取したアルコールの一部(2〜10%)は、分解されず そのまま呼吸・尿・汗によって体外へと排出。

お酒の強さは生まれつきで、鍛えることができない?

上で解説したように、アルコールは体内酵素の働きで

アルコール

アセトアルデヒド

酢酸

という過程を経て無害化されます。


そして「アルコール → アセトアルデヒド」へと変化させるADH酵素の働きは、個人差がほとんどありません。

日本人の約半数が、ALDH2酵素の働きが悪い

次に「アセトアルデヒド → 酢酸」へと変化させるALDH酵素について。

ALDH酵素には、ALDH1型・ALDH2型の2種類があります。

  • ALDH1
    体内でアセトアルデヒドが高濃度になると、ようやく働き出す
  • ALDH2
    体内のアセトアルデヒドが低濃度でも、どんどんアセトアルデヒドを分解


そして、日本人の約46%(おおよそ半数)はALDH2の働きが弱く、約1割の人はALDH2が全く働かないことが分かっています。

ALDH1だけでアセトアルデヒドを分解する場合、体内のアセトアルデヒドが高濃度にならなければ、酵素が働き出しません。

アセトアルデヒドは人体にとって有毒なため、悪酔い(頭痛、動機、目眩、嘔吐)することになります。

お酒の強さは生まれつき決まっている、という医学的根拠

ALDH2酵素が弱いと、悪酔いしやすい(=お酒に弱い)体質に。そして、ALDH2の働き具合は 先天性(※ 生まれつき)です。

つまり いくら努力して毎日お酒を飲もうが、ALDH2の働きが活性化したりはしません


これが「お酒の強さは生まれつき不変で、鍛えることができない」という主張の根拠です。

この学説が、医学界において長きに渡り支持されてきました。

MEOSによる、アルコールのもう一つの分解過程

ところが近年、この「お酒の強さは生まれつき不変」説と 矛盾する研究結果が報告されるように。

事の発端は、米ニューヨーク市立大学医学部のチャールズ・リーバー博士が、1970年代に発表した内容です。


リーバー博士は「ADHのアルコール分解能力は一生変わるはずが無いにも関わらず、飲酒が習慣化するに従い、体内のアルコール分解速度は速くなっていく」と発表。

さらに別の研究者は「突然変異によりADHが欠損しているマウスにアルコールを与えたところ、体内でアルコールが分解される現象を確認できた」と発表しました。


その結果 多くの研究者たちが「体内において、ADH以外にもアルコールを分解する酵素があるのではないか?」と推測。

その後の研究により、「アルコールは通常ADHとALDHによって分解されるが、ADHとALDHだけで分解処理が追いつかない場合は、『MEOS(ミクロソームエタノール酸化系酵素:メオス)』と呼ばれる酵素が アルコール分解を手助けする」ことが突き止められました。

「毎日お酒を飲み続けると、お酒に強くなる」は、正しかった!

さらにMEOSは、ADHとALDHのアルコール分解作業を手助けするだけでなく、定期的にお酒を飲むことで量が増えることも判明しました。

すなわち「お酒を飲み続ける習慣でMEOSが増える → アルコール耐性がつく」ということが、科学的に証明されたわけです。


本稿冒頭の「お酒に強い弱いは生まれつきのため、どれだけお酒を飲んだとしても、決して酔いにくい体質になったりはしない」という話は、MEOSが発見される前の古い学説だったと言うわけですね ^^)


・・・しかし、このMEOSによるアルコール分解には、大きな落とし穴があるんです。

MEOSが増えてアルコール耐性がつくデメリット

さて、上でご紹介したように「飲酒の習慣はMEOSを増やし、アルコール耐性が身につく(=酔いにくくなる)」というのが、アルコールに対する新しい学説です。


・・・これだけを見ると、ガバガバ毎日お酒を飲んでMEOSを増やしておいた方が、イザという時に役立ちそうな気もしますよね?

しかし実際は、誰一人として "過度な飲酒" を勧める専門家はいません。

MEOSが増えることで酔いにくい体質にはなるものの、人体にとって致命的となる多くの副作用を呼び起こしてしまうんです。


以下にその副作用をご紹介します。

アルコールが体内で分解される過程

MEOSが増えると、他の薬が効きづらくなる

そもそも人体において「アルコール分解」を担当しているのは、ADHとALDH。

MEOSの本来の役割は「薬物代謝(薬成分の分解)」であり、ADHとALDHだけでは処理しきれない場合のみ、アルコール分解を手助けします。

そのためMEOSの働きが活性化すると、アルコールにも耐性がつく反面、他の薬にも耐性がつくことに。すなわち、他の薬が効きづらくなるんです…。

※ 薬が効きづらい体質は、時として致命的な場合も

MEOSは活性酸素を生み出す

そして、MEOSがアルコールや薬などを分解する際には「活性酸素」が発生します。

※ 活性酸素:脳・内臓・神経の細胞やDNAを傷つけ、癌や老化、様々な病気の原因と言われている化学物質


MEOSが増え、MEOSがどんどんアルコールを分解するようになると、活性酸素も大量発生。

その結果、癌(特に 肝臓がん)のリスクが著しく上昇し、全身の老化・脳細胞の破壊などが促進されてしまうんです。

MEOSが増えることは、全身の癌リスクを上昇させる

それに加え「MEOSがアルコールを分解する際に、体内で癌の原因物質を分解する働きのある『シトクロムP450 2E1酵素』を使ってしまう」という衝撃的な内容も報告されています。


本来ならば癌を抑制するための酵素を、MEOSがアルコール分解に使用。

すなわち「MEOSの増加 = 過度な飲酒」は、肝臓がんだけではなく 全身の癌リスクを著しく上昇させます。

MEOSによるアルコール分解速度は、無限ではない

「生まれつき働きが決まっているADHやALDHとは異なり、MEOSは定期的な飲酒によって増加する」という点は、上述しました。

ところで、飲酒によってMEOSがどの程度まで増えるのか、未だに詳しいことは分かっていません。

※ 大量飲酒の習慣がある人は お酒を飲まない人に比べて、MEOSが10倍以上になる例も


しかし、MEOS量が10倍になったからとはいえ、アルコール分解速度が10倍になるわけではありません。MEOS増加によるアルコール分解速度の上昇は、せいぜい1.5倍〜2倍が限度。

↑もちろん、これでもかなり凄いアルコール耐性ですが…


そして「いくらMEOSが増加しても、アルコール分解速度は ある一定ラインで頭打ちになる」という性質は、アルコール依存症という深刻な症状を引き起こします

アルコール依存症へ陥るメカニズム

さて、MEOSが増えてアルコール耐性がつくということは、すなわち「MEOSが手助けしなければならないほどの大量飲酒が習慣化している」ということ。

そして上述のとおり、MEOSのアルコール分解速度は無限ではなく有限。


ところが、そのままお構いなしにMEOSのアルコール分解速度を上回る飲酒を続けていると、・・・次第に酔いを感じないように脳が変化していくんです。

この状態が、恐怖の「アルコール依存症」の始まりです。

アルコール依存症の原因

アルコールも広義では麻薬の一種。麻薬は使用量をどんどん増やしていかないと 初期のような快感が得られなくなっていきます。

これと同様に、人体で分解できるアルコール量を遥かに超える飲酒を続けていくと、脳や中枢神経が麻痺。血中アルコール濃度が高くても、酔いを感じにくくなります。

すると「酔い」の快感を得るために 飲酒量は増える一方。・・・これが典型的な「アルコール依存症へと陥るメカニズム」です。

アルコール依存症の症状

アルコール依存症は非常に危険。本人に酔っている自覚が無くとも、知らず知らずのうちに全身がアルコールによって破壊されていきます。


アルコールが人体に及ぼす悪影響としては

  • 肝硬変
  • 肝臓がん
  • 糖尿病
    (いきなりの気絶、失明)
  • 心筋梗塞
  • 脳梗塞、脳萎縮
    (記憶力/思考力障害)
  • 手足の震え
    (箸やスマホが操作できなくなります)
  • 吐血
  • 生殖器障害
    男性の場合:インポテンツ、精子の奇形、身体の女体化 など
    女性の場合:不妊、生理不純、奇形児 など


また、アルコールが無いと生きていけない精神状態となり、鬱や自殺衝動も引き起こしてしまいます…。

この記事のまとめ

毎日お酒を飲むと強くなる?鍛えられる? 『アルコール耐性』の真実
  1. なぜ酔うのか? - アルコール分解の過程(メカニズム)
    体内に入ったアルコールは、ADHにより「アセトアルデヒド」と呼ばれる有害物質に変化。その後、ALDHによって 人体に無害な「酢酸」へと分解。
  2. お酒の強さは生まれつきで、鍛えることができない?
    ADHは個人差がほとんど無く ALDHの働きは先天性。そのため「お酒の強さは生まれつきで、鍛えることができない」という学説が、長期に渡り支持されてきた。
  3. MEOSによる、アルコールのもう一つの分解過程
    近年「アルコール分解は通常ADHとALDHによって行われるが、処理が追いつかない場合、MEOSがアルコール分解を手助けする」ことが判明。そして、MEOSは定期的な飲酒により増加。「お酒を飲み続けることでお酒に強くなる」という主張は正しかった。
  4. MEOSが増えてアルコール耐性がつくデメリット
    MEOS増加は「お酒に酔いにくい体質を作る」一方で、「他の薬が効きづらくなる」「活性酸素を大量に生み出す」「癌の抑制物質が失われる」といった副作用を誘発。
  5. アルコール依存症へ陥るメカニズム
    MEOSのアルコール分解速度には限界がある。大量飲酒を続けると 血中アルコール濃度が高くても酔いを感じにくい状態に。こうしたアルコール依存症は、自覚なく身体を破壊し、失明や心筋梗塞・脳萎縮などの深刻な症状を引き起こす。

「お酒を飲み続けると、お酒に強くなるって本当?」という疑問 〜 アルコール依存症の発症メカニズムまでを解説しました。

本文中で言及したように、「大量飲酒の習慣が酔いにくい体質を作る」というのは、医学的に裏付けられた紛れも無い事実。

しかし、アルコール耐性を持つことは 大きな爆弾を抱え込むことであり、さらに アルコール依存症からの回復率は10〜30%程度に留まっています。


もし「お酒に強くなった」と自覚している人は、MEOSが増え 体が悲鳴をあげているシグナルだということに気付いてください。

著名な経営者・政治家の中には「お酒を飲まない」と公言している人もいます。アルコールのリスクを正しく知り、お酒との付き合い方を 考え直してみてはいかがでしょうか?


本稿が、何らかのお役に立てれば幸いです。