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お金と悪魔 p.3

地獄へ戻ってきた見習い悪魔は、意気揚々と先輩悪魔へ報告します。

「先輩、やりました、アホな女に寿命を売らせました! あと3時間後には奴隷が増えます!!」

「おぉ、よくやった! やはり買取金額を増やしたのが良かったんだろうな」

2匹の悪魔は、新たな奴隷が増える3時間後を、わくわくしながら待っていました。


しかし3時間をとっくに過ぎても、新たな奴隷は地獄にやってきません。悪魔たちは首を捻るばかりです。

◆  ◆  ◆

さて、見習い悪魔が地獄へ戻った後で、女はどうしていたのでしょうか?

悪魔に寿命を売って大金を得たはずの女は、死ぬまでの3時間の間に、お金には一切手を付けませんでした。


なんという神の奇跡! 実は女も、先ほどの男と同じく孤児院の職員だったのです。
そして悪魔に伝えた入金先口座は、「女の個人的な口座」ではなく「孤児院の口座」でした。

女は寿命が尽きるまでの3時間で、一心不乱に手紙を書き続けていました。


孤児院の子供たち一人ひとりに対して

  • 自分がどれだけ、あなたのことを愛しているか
  • あなたには どんな長所があり、その才能を活かしてどのように社会貢献ができるか
  • あなたには どんな短所があり、それを どのように克服していけばよいのか
  • みんなで仲良くすること
  • 嘘をつかないこと
  • 正義のために行動する勇気を持つこと
  • 私はもう2度と会えないけれど、いつまでもあなたのことを思っていること

を、長々と書き綴りました。


また、孤児院を共に運営している男に対しては、次のように書きました。

あなたは必死に隠していたようですが、孤児院の子供たちの生活費や学校費が足りないことを、私は知っています。

あなたは必死に隠していたようですが、あなたが毎日おそくまで、孤児院を支援してくれるよう 大勢の人たちへ頭を下げ続け、疲れ切っていることを知っています。

孤児院の口座を確認してください。子供たち全員が ひとり立ちするまでの、充分な資金が入っているはずです。お天道様おてんとうさまに誓って、不正な方法で得たお金ではありません。どうか子供たちを立派に育ててください。

私は諸事情により、これ以上 孤児院の職員を続けることはできなくなりました。しかし、いつでもみんなのことを思っています。

そして、その手紙たちを孤児院の机に並べて置きました。

その後 女は、誰にも見つからない山奥でお祈りをしながら、ついに天へ召されたのです。


翌朝 その手紙を読んだ男は、全てを悟り 涙を流しました。
そしてポロッとこう呟いたのです。
「悪魔から提示された寿命買取の値段が、もう少し多ければ、私が同じことをしたんだよなぁ…」と。

◆  ◆  ◆

そのころ天国では、新たな女の「義人」が一人やってきたとお祝いになっていました。

お祝い


どうやら見習い悪魔は、肝心なことを見誤ったようです。それは、同じ「寿命を売り払う」という行為でも 動機によって全く異なる結果となる、ということ。

もし、神さまから授かった寿命を「自己中心的な動機」で売り払った場合は、神さまへの冒涜。死後は悪魔たちの奴隷です。

しかし、神さまから授かった寿命を「他者のために」売り払った場合は、死後 最も神さまへ近い場所に行くのです。