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王さまと靴屋

新美南吉 著『王さまと靴屋

【ひとこと紹介】善いリーダーのいる組織には、善いメンバーが集まる。人の上に立つ者が心得ておくべき重要な教訓。

新美 南吉
(にいみ なんきち)

1913年(大正2年)〜1943年(昭和18年)。日本の児童文学作家。本名は新美 正八(旧姓:渡邊)。結核により29歳の若さで他界。

4歳で実母を亡くし、その後 継母である "しん" に育てられました。しんは養子である南吉と実子を分け隔てなく愛したそうです。

南吉は生涯をかけて「生存所属を異にするものの魂の流通共鳴」を追求。その思想は彼の作品にも表れています。

王さまと靴屋

 ある日、王さまはこじきのようなようすをして、ひとりで町へやってゆきました。

 町には小さな靴屋くつやがいっけんあって、おじいさんがせっせとくつをつくっておりました。

 王さまは靴屋くつやの店にはいって、
「これこれ、じいや、そのほうはなんという名まえか。」
とたずねました。

 靴屋くつやのじいさんは、そのかたが王さまであるとは知りませんでしたので、
「ひとにものをきくなら、もっとていねいにいうものだよ。」
と、つっけんどんにいって、とんとんと仕事をしていました。

「これ、名まえはなんともうすぞ。」
とまた王さまはたずねました。

「ひとにくちをきくには、もっとていねいにいうものだというのに。」
とじいさんはまた、ぶっきらぼうにいって、仕事をしつづけました。

 王さまは、なるほどじぶんがまちがっていた、と思って、こんどはやさしく、
「おまえの名まえを教えておくれ。」
とたのみました。

「わしの名まえは、マギステルだ。」
とじいさんは、やっと名まえを教えました。


 そこで王さまは、
「マギステルのじいさん、ないしょのはなしだが、おまえはこの国の王さまは ばかやろうだとおもわないか。」
とたずねました。

「おもわないよ。」
とマギステルじいさんはこたえました。

「それでは、こゆびのさきほどばかだとはおもわないか。」
と王さまはまたたずねました。

「おもわないよ。」
とマギステルじいさんはこたえて、くつのかかとをうちつけました。

「もしおまえが、王さまはこゆびのさきほどばかだといったら、わしはこれをやるよ。だれもほかにきいてやしないから、だいじょうぶだよ。」
と王さまは、金の時計をポケットから出して、じいさんのひざにのせました。

「この国の王さまがばかだといえばこれをくれるのかい。」
とじいさんは、金づちをもった手をわきにたれて、ひざの上の時計をみました。

「うん、小さい声で、ほんのひとくちいえばあげるよ。」
と王さまは手をもみあわせながらいいました。


 するとじいさんは、やにわにその時計をひっつかんでゆかのうえにたたきつけました。

「さっさと出てうせろ。ぐずぐずしてるとぶちころしてしまうぞ。不忠者ふちゅうものめが。この国の王さまほどごりっぱなおかたが、世界中にまたとあるかッ。」

 そして、もっていた金づちをふりあげました。

 王さまは靴屋くつやの店からとびだしました。とびだすとき、ひおいのぼうにごつんと頭をぶつけて、大きなこぶをつくりました。


 けれど王さまは、こころを花のようにあかるくして、
「わしの人民じんみんはよい人民だ。わしの人民はよい人民だ。」
とくりかえしながら、宮殿きゅうでんのほうへかえってゆきました。

まさしく「この王様にして、この民あり」。

現代日本に当てはめるならば

  • 善いリーダーのいる組織には、善いメンバーが集まる。
  • リーダーの人格を見れば、メンバーの人格もおおよそ分かる。逆もまた然り。

と言ったところでしょうか。

人の上に立つ者が心得ておくべき重要な教訓です。