夫婦仲がうまく行かない―。
結婚前、うまく行っていたはずのカップルが、結婚後うまく行かなくなるのは何故でしょうか? 二人の間にあったはずの“愛”はどこに消えてしまうのでしょうか?
夫婦の間に愛の芽を育てるのもコミュニケーションなら、その芽を摘んでしまうのもコミュニケーションです。
その基本は“言葉”によるコミュニケーション、すなわち“会話”でしょう。
前回の内容を踏まえ、今回は夫婦の会話が弾む“愛のキャッチボール術”について、ごくシンプルに説明してみたいと思います。
今日のコンテンツ
★ 会話は“聞き手”次第!?
★ 聞き方のポイント―心を向ける
★ モノは“言いよう”
★ 上手な伝え方―「Iトーク」
★ “愛”はコミュニケーション
会話は“聞き手”次第!?
こんな笑い話があります。
おばあさん:じいさんや、今のは与作さんかえ?
おじいさん:いやいや、ばあさん、今のは与作さんじゃよ。
おばあさん:そうかぁ。あたしゃ、てっきり与作さんかと思ったよ。
全く噛み合わないこの会話…(苦笑)、キャッチボールにならない原因は明白でしょう。「人の話を聞いていないから」です。(汗)
職場であれ、家庭であれ、円満な会話が成り立ちにくいのも、多くが自分の話をしたがる一方で、人の話を聞かないからでしょう。
実際、多くの人が“聞くこと”よりも、“話すこと”ばかりに意識を向けています。「人前で上手に話せるようになりたい」「プレゼン力を上げたい」…。
キャッチボールでも、子どもたちの多くは“捕りたい”のではなく、“投げたい”のです。でも、“ピッチボール”と言わず、“キャッチボール”と言われる理由はなぜでしょうか?
かの経営学者ピーター・ドラッカー博士はこう言いました。「コミュニケーションを成立させるのは話し手ではなく、聞き手である」。
円円満な会話・コミュニケーションを成り立たせているのは、実は“話す側”ではなく、“聞く側”(キャッチする側)なのです。
夫婦の一方が“聞き上手”になるだけで、夫婦間には豊かな会話が生まれてくるでしょう。
聞き方のポイント ― 心を向ける
“聞く”(聴く)とは、相手の話に“関心(心)を向けること”を言います。
そのため、相手の話に“耳”を傾けるだけでなく、“目”も向け、“顔”も向け、“心”も向けない限り、相手の話は“聞けない”のです!
“向ける”ことを強調する理由は、大方、他人の話というのは、自分にとっては関心外(=どうでもいいこと)だったりするからです(汗)
要するに、スマホを見ながら“聞いてるよ~”と言うのは“聞いている”うちに入らない(!!)、というお話です。
尚、「傾聴トレーニング」には様々な聞き方がありますが、ここでは敢えて割愛し、“技法”以上に大切なポイントをお伝えしたいと思います。
時折、「聞き方を学んだところで、相手が話そうとしないので意味ないですよ~」と言われる方がいますが、それは恐らく、“自分が聞きたいこと”を聞こうとしているだけで、“相手が話したいこと”を聞こうとしていないから―なのかもしれません。
まずは、奥様たちに(たとえ“関心外~”と思えたとしても)聞いてもらいたいことは“夫の自慢話”です(!!)
横やりを入れず、ケチもつけずに、心から「すご~い」と感嘆(?)しながら聞いてあげてください。
それが“本当にすご~い夫”に変える魔法の呪文であり、会話を取り戻す“呼び水”になるのです。
一方で、男性たちの聞くべき最も重要度の高い話は“妻の愚痴”でしょう。
批判も講釈も入れずに、「それは大変だったね」と深~い共感に努めながら聞きましょう。聞くこと、共感することは百のアドバイスに勝るのです。
是非、覚えておいてください。人は皆、“話をしてくれた人”に愛情を感じる以上に、“話を聞いてくれた人”に愛情を感じるのです。
モノは“言いよう”
“言葉”は人を生かしもするし、殺しもします。
皆さんも過去、例えば、親に言われた一言で勇気づけられたり、傷ついたりしたことってあるでしょう。相談者の中には、過去の親の一言が、数十年に及ぶトラウマとなっているケースもありました。
自分のことをよく知りもしない赤の他人からなら、誤解されようと、言われのない悪口を浴びせられようと、さほど痛くもかゆくもないでしょう。しかし“近い人”から言われると、その“ジャブ”はもろにボディーに(ハートに!!)に響くのです!
特に妻の一言は、夫にとっては“強打”になり得ることを自覚しておいてください。「も~ダメなんだから」「いつもいつも!」「信じらんな~い!!」「ほら~、だから言ったじゃない!」…。
言わば、ミットを構えていないところにボールが投げ込まれているようなもの。それはもはや、“キャッチボール”ではなく、“ドッチボール”でしょう。動機と目的が変わってしまっていることに気付いてください(汗)。
しっかり者の奥さんほど、夫の問題行動を“変えたい・正したい”と思うのでしょう。しかし、「モノは言いよう」です。
夫たちはよく言います。「妻の言っていることは確かに正しいんです。でも、言い方が受け入れ難いんですよね」…。
本当に相手の言動を変えたいなら、相手に受け止められるようなボールの投げ方をしたほうがいいでしょう。
上手な伝え方―「Iトーク」
様々な表現方法があるかと思いますが、ここでは一つ、「I(アイ)トーク」というものを紹介しておききたいと思います。
これは相手に何らかの要求をする際、“相手”を主語にして非難する(=相手+行動+非難)代わりに、“私(I)”を主語にして思いを伝える(=私+状況+感じ方)という会話法です。
用例は下記の通りです。
妻:「あなたは私の話をちっとも聞いてくれないじゃない」
⇒「私はあなたが話を聞いてくれないのでとっても寂しく思ったわ」
夫:「君は僕のことを馬鹿にしてるんじゃないのか?」
⇒「僕は君から馬鹿にされているように思えて苦しいよ」
妻:「あなたはなんでいつも帰りが遅いのよ!」
⇒「(私は)あなたの帰りが遅いから心配したじゃない」
上記から知れる通り、主語を変えると共に“愛情”のこもった言い方をするため、「Iトーク」は「愛トーク」でもあるのです。
また、言葉に加え、口調や音のトーン、表情やしぐさは、時として、言葉以上の伝達力を帯びるでしょう。
「ちゃんとやってよね」という言葉も、愛情と親しみのこもった表情で言われれば、信頼ゆえの言葉に変わりますし、「まったく、もう!」という言葉も、ユーモア交じりにふくれっ面されれば、愛嬌として受け止められるでしょう。
大切なことは、言っていることが正しいか否か以上に、“伝わり方”(=ボールの投げ方)なのです。
“愛”はコミュニケーション
最後に。ドイツの心理学者エーリッヒ・フロムは「愛は与えることだ」と述べています。
恋愛感情が「求めること」なら、愛は「与えること」なのかもしれません。
無論、相手を“好き”(恋)になれば、その人のために与えたい(愛)と思うでしょう。ただ、恋愛感情は“愛を育む原動力”にはなっても、その力は時と共に弱まっていくのです。
自転車に乗るにも助走が必要で、後ろから押す力が加われば、自転車は前に進みます。…が、その後は“自分の足で漕ぎ続けなければならない”でしょう。それが“コミュニケーションを取ること”だと思ってください。
恋愛感情という力が生涯続くなどということはありません。
一度、力を与えられた物体が、その方向に進み続けるという“慣性の法則”は、何の障害も、摩擦力もない場合にのみ適用されます。
結婚生活という数々の障害や摩擦力のある中を、夫婦が愛を育み、前へ前へと進んでいくためには、不断の努力とコミュニケーションが必要なのです。自動的に前に進むのではありません。
互いが学び合い、努力し、高め合い、励まし合っていくことを通して、夫婦は夫婦になっていくのです。
投入した時間の一秒一秒、交わした言葉の一言一言、送り合った手紙の一通一通が、豊かな夫婦関係を築き、二人の間の愛を育くんでいくのです。
是非、今後の生活を通して、「愛のキャッチボール」を続けて行ってください。
最後に、フランスの作家アンドレ・モロアの言葉を記して終わります。「幸福な結婚とは、婚約から死ぬまで、決して退屈しない永い会話のようなものである。」
まとめ
- 聞くとは心を向けること。相手の話に心を向け、特に妻の愚痴や夫の自慢話は共感と称賛の思いで受け止めること
- モノは言いよう。言い分が正しいかどうかより、相手が受け止め易いような伝え方(言葉や表情)を心がけること
- 恋愛感情は長く続かない。忙しい結婚生活の中で二人が“愛”を育むには、不断の努力とコミュニケーションが大切