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デンマルク国の話 p.2


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 今、ここにお話しいたしましたデンマークの話は、私どもに何を教えますか。

 第一に戦敗かならずしも不幸にあらざることを教えます。国は戦争に負けても亡びません。実に戦争に勝って亡びた国は歴史上けっしてすくなくないのであります。国の興亡は戦争の勝敗によりません、その民の平素の修養によります。善き宗教、善き道徳、善き精神ありて国は戦争に負けても衰えません。いな、その正反対が事実であります。牢固ろうこたる精神ありて戦敗はかえって善き刺激となりて不幸の民を興します。デンマークは実にその善き実例であります。

 第二は天然の無限的生産力を示します。富は大陸にもあります、島嶼とうしょにもあります。沃野にもあります、沙漠にもあります。大陸のぬしかならずしも富者ではありません。小島の所有者かならずしも貧者ではありません。善くこれを開発すれば小島も能く大陸にさるの産を産するのであります。ゆえに国の小なるはけっしてなげくに足りません。これに対して国の大なるはけっして誇るに足りません。富は有利化されたるエネルギー(力)であります。しかしてエネルギーは太陽の光線にもあります。海の波濤なみにもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります。かならずしも英国のごとく世界の陸面六分の一の持ち主となるの必要はありません。デンマークで足ります。しかり、それよりも小なる国で足ります。そとひろがらんとするよりはうちを開発すべきであります。

 第三に信仰の実力を示します。国の実力は軍隊ではありません、軍艦ではありません。はたまた金ではありません、銀ではありません、信仰であります・・・・・・・。このことにかんしましてはマハン大佐もいまだ真理を語りません、アダム・スミス、J・S・ミルもいまだ真理を語りません。このことにかんして真理を語ったものはやはりふるい『聖書』であります。

もし芥種からしだねのごとき信仰あらば、この山に移りてここよりかしこに移れとうとも、かならず移らん、また汝らにあたわざることなかるべし (マタイ伝一七章二〇節)

とイエスはいいたまいました。また

おおよそ神によりて生まるる者は世に勝つ、われらをして世に勝たしむるものはわれらの信なり (ヨハネ第一書五章四節)

と聖ヨハネはいいました。世に勝つの力、地を征服する力はやはり信仰であります。ユグノー党の信仰はその一人をもってすき樅樹もみのきとをもってデンマーク国を救いました。よしまたダルガス一人に信仰がありましてもデンマーク人全体に信仰がありませんでしたならば、彼の事業も無効に終ったのであります。この人あり、この民あり、フランスより輸入されたる自由信仰あり、デンマーク自生の自由信仰ありて、この偉業が成ったのであります。宗教、信仰、経済に関係なしととなうる者は誰でありますか。宗教は詩人と愚人とにくして実際家と智者に要なしなどと唱うる人は、歴史も哲学も経済も何にも知らない人であります。国にもしかかる「愚かなる智者」のみありて、ダルガスのごとき「さとき愚人」がおりませんならば、不幸一歩を誤りて戦敗の非運に遭いまするならば、その国はそのときたちまちにして亡びてしまうのであります。 国家の大危険にして信仰を嘲り・・・・・・・・・・・・・・これを無用視するがごときことは・・・・・・・・・・・・・・・ ありません・・・・・。 私が今日ここにお話しいたしましたデンマークとダルガスとにかんする事柄は大いに軽佻浮薄けいちょうふはくの経世家をいましむべきであります。